蒼き狼 地果て海尽きるまでのレビュー・感想・評価
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アジアの馬可愛い
壮大な大河ものかと思ったら個人の友情や家族主体の物語だった。チンギスハンをとても日本人的な感覚で描いた印象で期待と違った。
しかし見せ場の広大な草原の中で行われる騎馬の闘いはお金をかけただけあって他で出来ない事をしている。馬から転げ落ちてからの攻撃や走る馬に飛び乗ったり騎乗しながら色々な態勢で弓を射ったり。騎馬の数も凄いしただ乗って走っているだけじゃない戦闘シーン、これにはモンゴル現地ロケにした事を納得。
その分人間ドラマが教科書的で残念に感じてしまう。
厳しい自然に生きる騎馬民族の苛烈さチンギスハンの野心や人間性をどう見せるのか期待したけど、分かりやすく受け入れやすくまとめたらサムライ的な義を守る人物像になって日本人的にこじんまりしたものになってしまった感。
ジャムカ、お前の勝ちやな・・・チッチキチー
なぜか松方弘樹の声が大木こだまを意識しているような気がしてならなかったのですが、テムジン(反町隆史)とジャムカ(平山祐介)がやってきたときに「そんな奴おらへんやろー」とか「そらアホやでー」と言ってくれたら最高だったと思います。
この映画を観るために米映画の『ジンギス・カン』(1965)を見直しました。オマー・シャリフがジンギス・カンを演じ、騎馬戦一騎撃ちのシーンなどはなかなか良かったのですが、ジャムカが徹底的な悪役を通していたところなど、さすが敵をはっきりさせたいハリウッド映画はちょっと違います。なにしろモンゴル統一というテーマではなく、侵略を繰り返して世界の半分を領土とする英雄として描いた映画だったのです。ちなみに史実は滅茶苦茶だった・・・
この森村誠一原作の角川映画では「戦争の被害者はいつも残された女である」といったテーマや、エディプス・コンプレックスにも似た「蒼き狼の血を証明したい」と願う息子ジュチのテーマがあった。夫人の強奪や敵将の子を身篭ること。戦乱の時代では当然のように言われていたが、悲しき家族の運命はとても辛いことであることは想像しやすい。それがテムジンの出生の秘密とも被り、運命の皮肉を一層盛り立てる。圧倒的なスペクタルと腹にも響く騎馬軍団の地響き効果も凄かったけど、英雄伝の裏に隠された人間ドラマが印象に残ります。
俳優の演技としては、テムジンの母親役である若村麻由美が最も良かった。韓国の新人女優Araは日本語が上手い。津川雅彦は美味しいところを持っていた・・・いい演技が多かった中で、菊川怜が全てを台無しにしてしまったといったところでしょうか。なぜ菊川怜が選ばれたのか。もしかするとモンゴル顔だから?などと考えてみたけど、本来日本人の多くはモンゴル系。映画でも日本語が使われていることがおかしいといった議論もどこかおかしい・・・
それにしても角川さんはまた巨額の投資をしたものです。たしかにモンゴル人のエキストラ効果でCGに頼らない迫力映像となりましたが、それならなぜもっと早くに映画化しなかったのか。構想27年という謳い文句があるため調べてみると、27年前には加藤剛主演のテレビドラマがあったのですね(井上靖原作)。これを映画化しようと考えていたけど、井上氏からは映画化の了解がもらえず、後にかつての角川秘蔵っ子森村氏が書いてくれた(もしくは書かせた)ので便乗したというところなのか・・・妄想中。
さらば、角川帝国
日本人が日本語でモンゴル人を演じる。
まあ百歩譲ってこの設定は許せる。
古くは「釈迦」や「秦・始皇帝」、最近だと「テルマエ・ロマエ」、ハリウッド映画にだってこういう設定はある。
雄大なロケーションと大エキストラは勿論許せる。
だけど…
肝心のストーリーと演出と演技が酷い。学芸会レベル。
ストーリーと演出はもはや漫画。アニメにした方がまだマシ。
同時期に作られた「モンゴル」はテムジンがハーンになる前の内面の掘り下げと葛藤のドラマがメインだったのに対し、こちらはハーンになりモンゴル帝国を築くまでの話をメインにしたのが安易過ぎ。
別に悪い訳じゃないが、余りにも英雄的に描かれ過ぎている。ハーンはモンゴル帝国皇帝であると共に残虐な侵略者である事も忘れてはいけない。
反町隆史は熱演、若村麻由美も頑張ってるんだけど…
菊川怜は相変わらずお下手。この人、代表作って何かあったっけ?
カタコト日本語の素人さんに失笑。
映画に足を引っ張られて演技派・松山ケンイチも魅力ナシ。
制作費30億円をかけたプロデューサー・角川春樹の勝負作。
もう数年前の映画なので、結果は言うまでもない。
確かに角川は一時代を築いた大プロデューサーだ。
しかし、今はもう角川の時代ではないのかもしれない。
この映画を見る限り、そう感じずにいられない。
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