「やりたかったのは、古典的な名作のパロディか?」サン・セバスチャンへ、ようこそ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
やりたかったのは、古典的な名作のパロディか?
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何と言っても印象に残るのは、主人公の夢や妄想として描かれる9本の古典的な名作映画へのオマージュである。
ただし、これらは、パロディとしては楽しめるものの、ストーリー上、どうしても必要だったのかと言えば、必ずしもそうとは思えない。
むしろ、ウッディ・アレンが本当にやりたかったのは、こちらのオマージュの方で、ストーリー自体は、そのための「前振り」に過ぎなかったのではないかとさえ思えてしまう。
というのも、「妻の不倫を疑う男が、妻以外の女性に惹かれていく」という本筋のストーリーが、今一つ盛り上がらないのである。
とても恋愛には発展しそうもない老いらくの恋を見せられても、どうせ先が見えているし、かと言って、それぞれの浮気相手とデート中の夫と妻が、街中でばったり出くわすといったドタバタ劇がある訳でもない。
ただ、妻の不倫を疑わせる描写が、あまりにもあからさまだっただけに、「どうせ、妻は不倫をしておらず、夫婦は元の鞘に収まるのだろう」という予想が外れてしまったのは、やや意外だった。
それだったら、夫の方にも、女医と結ばれるという結末が用意されても良かったのではないかとも思ってしまう。
あるいは、主人公にとってのほろ苦いエンディングは、小難しいウンチクを並べてインテリぶっているスノビズムへの戒めなのかもしれない。
稲垣浩の「忠臣蔵」や黒澤明の「影武者」という作品選定の微妙さを見るにつけ、そう思えてしまうのである。
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