「傑作を書けば全てが変わると思っている愚か者に、かける言葉はあるだろうか」サン・セバスチャンへ、ようこそ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作を書けば全てが変わると思っている愚か者に、かける言葉はあるだろうか
2024.1.20 字幕 MOVIX京都
2020年のスペイン&アメリカ&イタリア合作の映画(88分、G)
映画祭に参加した関係が終わっている夫婦の決断を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はウディ・アレン
原題は『Rifkin‘s Festival』で「リフキンの映画祭」という意味
物語はニューヨークのある精神科医の診察室にて、傑作を書きたい作家モート・リフトン(ウォーレンス・ショーン、幼少期:カメロン・ハンター)が精神科医(マイケル・カーヴェイ)に「映画祭の出来事」を話しているシーンが紡がれて始まる
かつて、映画について教鞭を執っていたモートは、今では歴史に残る傑作を書くことに集中しつつも、何も残せずに日々を過ごしていた
彼は、フランス人映画監督のフィリップ(ルイ・ガレル)のプレスエージェントとして働いているスー(ジーナ・ガーション)と結婚していたが、その関係は完全に冷え切っていた
モートは「乗る馬を間違えたと思っているに違いない」と自分を卑下しつつも、フィリップとの不倫関係を疑っていた
そして、それを確かめるために、来たくもない映画祭に参加することになっていたのである
映画祭にて、仕事に打ち込むスーだったが、彼女はそれを言い訳にして、夫との時間をほとんど作らない
二人きりの食事も「失礼だから」と言ってフィリップを招待してしまう
また、モートはサン・セバスチャンに来てから妙な夢を見るようになり、それはクラシカルな名作のワンシーンに自分が登場するものだった
そんな折、友人のトマス(エンリケ・アース)に出会ったモートは、胸の痛みを訴え、とうとう知り合いの医者を紹介されてしまうのである
物語は、紹介されたロハス医師(エレナ・アヤナ)を気に入ったモートが、なりふり構わずに会う時間を作ろうと躍起になっている様子が描かれていく
そして、そんなある日、彼女が抱えている問題に直面したモートは、彼女を励ますためにあらゆる方策を取ろうと考える
彼女には画家の夫パコ(セルジ・ロペス)がいたが、彼は自分勝手な男で、トマスから見ても「最悪な夫」だったのである
映画は、クラシカル映画をモートたちで再現する流れを汲んでいて、その全てがモートの妄想になっている
そこには彼の両親(リチャード・カインド&ナタリー・ポーザ)も登場し、青春期に恋をした相手(カルメン・サルタ)も登場する
そして、やがてその妄想にスーとフィリップが登場し、さらに弟(スティーヴ・グッテンベルク)とその妻ドリス(タミー・ブランチャード)まで現れてしまうのである
登場する映画に関してはパンフレットで詳しく説明されていて、1940年代〜60年代くらいの名作と呼ばれる作品が登場している
世代ではないので鑑賞歴はないが、これらの古典を観ておいた方が良いとは思う
それでも、オマージュなんだろうなあということはわかるので、あえて予習をする必要もないように思えた
いずれにせよ、映画は「夫婦の決断」を描いているものの、その答えは映画祭に来る前に決まっているようなものだった
スーは夫に気づかせるためにあえて距離を縮めて見せていて、モートはスー去りし後のことを考えている
最終的にモートは独り身でニューヨークに帰ることになり、そして精神科医に愚痴をこぼしているという構成になっていた
この構図を面白いと思えるかは映画キャリアによるとは思うものの、映画自体がかなりマニア向けに作られているので、ハードルは高めに設定されたものだったと言えるのではないだろうか