劇場公開日 2023年12月29日

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「自己実現と無力感」ラ・メゾン 小説家と娼婦 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自己実現と無力感

2024年1月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

鳴かず飛ばずの作家・エマが、取材目的であることを隠して高級娼館へ娼婦の一人として潜入取材を試みる話。
「自分は大丈夫」「戻れる」と言いながら、眉を顰められるような世界や過酷な世界に入っていく人は現実にも沢山いる。その背景には楽観や正常性バイアス、自分は特別だと信じる自意識など、様々なものがあるのだろう。

ストーリーは「そらそうよ」の一言に尽きる、リアリティラインとしてもフィクションラインとしても特に意外性のない物語だった。
この作品は、物語の展開や結末自体は重要ではないのかも知れない。観客一人一人の性別、人生観、性欲との付き合い方、職業観、家庭観などによって異なる刺さり方をする作品のように思える。
自分は、エマが娼館の外の日常の中で孤独や野心を持て余す姿が強く印象に残った。商業作家の売れ筋から遠ざかり乗ったはずの「特別」なレーンから外れていく焦りや、「普通」の暮らしに埋もれることを否定しながらも完全には背を向けることができない心の揺れに蝕まれるエマの姿が沈痛だった。
自分を愛するが故に、愛したい自分がそこにいないことが苦しい。少しでも居心地のいい場所を求め、環境を変え彷徨うエマは、いつか理想と現実のギャップを擦り合わせることができるのだろうか。

タフに生きるプロ達の物語として観るもよし、女性の物語として観るもよし、青年から壮年への岐路の物語として観るもよし、壁を挟んで様々な時間の使い方が繰り広げられる空間を楽しむもよし、様々な見方をさせてくれる個性豊かな俳優陣や制作陣の手腕を讃えたい。

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うぐいす