オールド・フォックス 11歳の選択

劇場公開日:

オールド・フォックス 11歳の選択

解説

台湾の名匠ホウ・シャオシェン製作のもと、台湾ニューシネマの系譜を継ぐ俊英シャオ・ヤーチュアン監督が、バブル期の台湾を舞台に正反対な2人の大人の間で揺れ動く少年の成長を描いたヒューマンドラマ。

1989年、台北郊外。レストランで働く父のタイライと慎ましく暮らす11歳のリャオジエは、いつか父とともに家を買い、亡き母の夢だった理髪店を開くことを願っていた。しかしバブルによって不動産価格が高騰し、父子の夢は断たれてしまう。ある日、リャオジエは「腹黒いキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる地主のシャと出会う。シャは優しく誠実なタイライとは違い、生き抜くためには他人を見捨てろとリャオジエに言い放つ。現実の厳しさと世の不条理を知ったリャオジエは、父とシャの間で揺らぎ始める。

「Mr.Long ミスター・ロン」のバイ・ルンインがリャオジエ、「1秒先の彼女」のリウ・グァンティンがタイライ、台湾の名脇役アキオ・チェンが地主シャをそれぞれ演じ、「怪怪怪怪物!」のユージェニー・リウらが共演。また、経済的には恵まれているが空虚な日々を送る人妻ヤンジュンメイ役で、門脇麦が台湾映画に初出演を果たした。

2023年製作/112分/G/台湾・日本合作
原題または英題:老狐狸 Old Fox
配給:東映ビデオ
劇場公開日:2024年6月14日

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映画レビュー

4.0少年の観察と気づきと成長を通じて、変わりゆくもの、変わらないものを描く

2024年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

台北郊外の仄かな灯りの下、市井の人々のささやかな息遣いを丁寧に汲み取った上質なドラマである。1989年の不動産価格の高騰が人々の暮らしや価値観に影響を与える様子を描きつつ、そんな日々の中で出会う11歳の少年と、狐のような抜け目のなさで人々から恐れられる地主、オールド・フォクスとの交流を紡ぐ。側から見ると、まるで祖父と孫。しかし実質的には人生の師弟、もしくはフォックスの存在はさながらメフィストフェレスとさえ言えるのかも。作品の構造として面白いのは、物語を1989年に限定した「一点」で描くのではなく、フォックスが育った時代、少年の優しい父親が経た時代、それから少年自身の時代という、価値観や意識が異なる3つの生き様を交錯させているところ。世代間の差異が自ずと台湾の現代史、精神史を浮かび上がらせる。やや地味に思える側面もあるものの、忘れがたい味わいが沁み出し、我々を深く穏やかに包み込む秀作である。

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牛津厚信

4.0「1秒先の彼女」の“彼”が善き父に。天才子役が演じる11歳の息子の“変心”が物語を牽引する

2024年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

シャオ・ヤーチュアン監督は、1998年の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作「フラワーズ・オブ・シャンハイ」で助監督を務め、2000年の長編デビュー作「Mirror Image」からこの第4作までホウ・シャオシェン製作のもと撮り続けてきたことから、侯孝賢の愛弟子であり継承者と言えそうだ。1989年の台北郊外を舞台にした本作でも、ノスタルジーと社会派視点が侯孝賢作品を彷彿とさせる。ちなみにシャオ監督の2作目はグイ・ルンメイ主演の「台北カフェ・ストーリー」で、お気に入りの台湾映画の一本。

台湾では1988年に戒厳令が解除され、投資の自由化が一気に進んだことで拝金主義が急激に広がるなど、日本とは歴史的背景が異なるもののタイミングとしては共時的にバブル経済の様相を呈していた。そんな中、劇中のテレビニュースから流れる台湾史上最大の集団型経済犯罪「鴻源事件」が起きたという(概要をより詳しく知りたいなら、「鴻源案」で検索し中国語版Wikipediaの項を翻訳して読んでみよう)。

亡き妻の夢だった理髪店をいつか持つため、レストランのウエイターと内職で地道に働き11歳の息子リャオジエと質素に暮らす父タイライ。当初は素直でおとなしい性格のリャオジエだったが、老獪な地主のシャと出会い距離が近づくことで、次第に心のあり方が変化していく。

タイライ役は「1秒先の彼女」でいつも1秒動作が遅いバス運転手を演じていたリウ・グァンティン。今回も誠実で穏和なキャラクターがうまくはまっている。息子リャオジエ役のバイ・ルンインは、父とはまるで正反対の生き方で成り上がったシャに感化され、目つきと表情が変わっていく過程や、大人たちの間で揺れ動く心模様を見事に体現。リャオジエの変化が物語を牽引する原動力といっても過言ではない。ちなみにシャ役のアキオ・チェンも、山崎努を少し若返らせてビートたけしっぽさをちょっと足した感じで味のある俳優だ。

困ったときや苦しいときに助け合う、片親の子は地域や職場で見守るといった昔ながらの美徳が、自分の成功や幸福のためなら他人を利用したり見捨てたりしてもかまわないといった利己主義に押されていく流れは、当時の台湾のみならず、日本や他の国々でも近現代のどこかの時代で経験してきたはず。そうした社会の縮図としてごく少数のキャラクターを配置し表現した脚本が巧い。失われゆく美徳へのノスタルジックな眼差しもまた、台湾ニューシネマの継承者と目される要因だろう。

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高森 郁哉

5.0映像の切り取り、脚本、人物構成など素敵だった。オールドフォックスの...

2024年7月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

映像の切り取り、脚本、人物構成など素敵だった。オールドフォックスの哀しみをはねのける少年が良かった。物語は複層的。オールドフォックスが成功したのは、少年との約束を果たしながら、父親の気持ちを読んでいて、譲らせたことか。ラストシーンも寓話的。自伝的モチーフなのだろうか。父親に頭にきている少年の気持ちが伝わる。

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えみり

3.01945年まで、台湾では日本語が公用語だった!

2024年7月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

もともと国共内戦の産物として成立した戒厳令が1987年に解除された後、バブル下にあった89年の台北を背景にした映画。
豪華な中華レストランの給仕頭として地道に働く父のタイライとガス代を倹約してまで慎ましく暮らしている11歳のリャオジエは、いつか店舗付きの家を買って、亡き母の願いだった理髪店を開くことを夢見ていた。リャオジエは、ひょんなことから、自分の家の地主であるシャと出会うが、彼は、富の象徴としてのロールスロイスやポルシェを乗りまわす。リャオジエは思春期に差し掛かる微妙な年齢でもあり、誠実一本やりのタイライではなく、老獪なキツネ(Old Fox:原題)とよばれるシャの言葉を受け入れるようになってゆく。リャオジエは、不幸があって安くなった物件を、シャと直接交渉して手に入れようとする。さて、タイライはどうするか。
最初、ホウ・シャオシェンの影響かカット・バックが多く、二人の美しい女性が交互に出てきて人間関係が掴みづらいこともあって退屈だった。少し我慢して見ていたら、漸くわかった。脚本を中心になって書いたと思われるシャオ・ヤーチュアン監督は、始め一人の女性を想定していたが、二人に切り分けたようだ。その一人は、シャの元で働き、いつも赤い服を着て「綺麗なお姉さん」と呼ばれて家賃の集金に来るリン。親子が風邪をひいたときには看病してくれた。きっと、タイメイに淡い恋心を抱いているのだろう。もう一人は、門脇麦が扮している、いつも黒い服を着ているヤン。彼女は、タイメイの初恋の相手で、レストランに来ては、料理をたくさんオーダーし、気前よく支払ってくれる。リンとヤンの二人は、一度だけ、シャの家で隣り合って座るが、二人とも顔の同じところに傷を負っていた。
シャに助けてもらって、いじめっ子に対して優位になったリャオジエは、レストランで立ち聞きしたことを、シャに告げ口する。それで窮地に立たされたのがリン。彼女がシャのことを思って情報を漏らした相手が、ヤンの夫というのが、二人の真のつながり。この二人は、大事な役柄なのに、直接、触れ合うところが少ないと、物語の構造が弱くなる。
それにしても、シャは一番肝心なところで、日本語が出る。演出だろうけれど、台湾は45年まで日本の統治下だったが、苦しい試練があったに違いない。台湾には、2018年まで、2から3年の男子皆兵があった。大変、賢そうに見えたリャオジエの将来は、どうなったろう?思春期の後の軍隊経験は、彼をきっと大きく成長させたのだと思う。

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詠み人知らず

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