オールド・フォックス 11歳の選択

劇場公開日:2024年6月14日

オールド・フォックス 11歳の選択

解説・あらすじ

台湾の名匠ホウ・シャオシェン製作のもと、台湾ニューシネマの系譜を継ぐ俊英シャオ・ヤーチュアン監督が、バブル期の台湾を舞台に正反対な2人の大人の間で揺れ動く少年の成長を描いたヒューマンドラマ。

1989年、台北郊外。レストランで働く父のタイライと慎ましく暮らす11歳のリャオジエは、いつか父とともに家を買い、亡き母の夢だった理髪店を開くことを願っていた。しかしバブルによって不動産価格が高騰し、父子の夢は断たれてしまう。ある日、リャオジエは「腹黒いキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる地主のシャと出会う。シャは優しく誠実なタイライとは違い、生き抜くためには他人を見捨てろとリャオジエに言い放つ。現実の厳しさと世の不条理を知ったリャオジエは、父とシャの間で揺らぎ始める。

「Mr.Long ミスター・ロン」のバイ・ルンインがリャオジエ、「1秒先の彼女」のリウ・グァンティンがタイライ、台湾の名脇役アキオ・チェンが地主シャをそれぞれ演じ、「怪怪怪怪物!」のユージェニー・リウらが共演。また、経済的には恵まれているが空虚な日々を送る人妻ヤンジュンメイ役で、門脇麦が台湾映画に初出演を果たした。

2023年製作/112分/G/台湾・日本合作
原題または英題:老狐狸 Old Fox
配給:東映ビデオ
劇場公開日:2024年6月14日

スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0 少年の観察と気づきと成長を通じて、変わりゆくもの、変わらないものを描く

2024年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

台北郊外の仄かな灯りの下、市井の人々のささやかな息遣いを丁寧に汲み取った上質なドラマである。1989年の不動産価格の高騰が人々の暮らしや価値観に影響を与える様子を描きつつ、そんな日々の中で出会う11歳の少年と、狐のような抜け目のなさで人々から恐れられる地主、オールド・フォクスとの交流を紡ぐ。側から見ると、まるで祖父と孫。しかし実質的には人生の師弟、もしくはフォックスの存在はさながらメフィストフェレスとさえ言えるのかも。作品の構造として面白いのは、物語を1989年に限定した「一点」で描くのではなく、フォックスが育った時代、少年の優しい父親が経た時代、それから少年自身の時代という、価値観や意識が異なる3つの生き様を交錯させているところ。世代間の差異が自ずと台湾の現代史、精神史を浮かび上がらせる。やや地味に思える側面もあるものの、忘れがたい味わいが沁み出し、我々を深く穏やかに包み込む秀作である。

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牛津厚信

4.0 「1秒先の彼女」の“彼”が善き父に。天才子役が演じる11歳の息子の“変心”が物語を牽引する

2024年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

シャオ・ヤーチュアン監督は、1998年の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作「フラワーズ・オブ・シャンハイ」で助監督を務め、2000年の長編デビュー作「Mirror Image」からこの第4作までホウ・シャオシェン製作のもと撮り続けてきたことから、侯孝賢の愛弟子であり継承者と言えそうだ。1989年の台北郊外を舞台にした本作でも、ノスタルジーと社会派視点が侯孝賢作品を彷彿とさせる。ちなみにシャオ監督の2作目はグイ・ルンメイ主演の「台北カフェ・ストーリー」で、お気に入りの台湾映画の一本。

台湾では1988年に戒厳令が解除され、投資の自由化が一気に進んだことで拝金主義が急激に広がるなど、日本とは歴史的背景が異なるもののタイミングとしては共時的にバブル経済の様相を呈していた。そんな中、劇中のテレビニュースから流れる台湾史上最大の集団型経済犯罪「鴻源事件」が起きたという(概要をより詳しく知りたいなら、「鴻源案」で検索し中国語版Wikipediaの項を翻訳して読んでみよう)。

亡き妻の夢だった理髪店をいつか持つため、レストランのウエイターと内職で地道に働き11歳の息子リャオジエと質素に暮らす父タイライ。当初は素直でおとなしい性格のリャオジエだったが、老獪な地主のシャと出会い距離が近づくことで、次第に心のあり方が変化していく。

タイライ役は「1秒先の彼女」でいつも1秒動作が遅いバス運転手を演じていたリウ・グァンティン。今回も誠実で穏和なキャラクターがうまくはまっている。息子リャオジエ役のバイ・ルンインは、父とはまるで正反対の生き方で成り上がったシャに感化され、目つきと表情が変わっていく過程や、大人たちの間で揺れ動く心模様を見事に体現。リャオジエの変化が物語を牽引する原動力といっても過言ではない。ちなみにシャ役のアキオ・チェンも、山崎努を少し若返らせてビートたけしっぽさをちょっと足した感じで味のある俳優だ。

困ったときや苦しいときに助け合う、片親の子は地域や職場で見守るといった昔ながらの美徳が、自分の成功や幸福のためなら他人を利用したり見捨てたりしてもかまわないといった利己主義に押されていく流れは、当時の台湾のみならず、日本や他の国々でも近現代のどこかの時代で経験してきたはず。そうした社会の縮図としてごく少数のキャラクターを配置し表現した脚本が巧い。失われゆく美徳へのノスタルジックな眼差しもまた、台湾ニューシネマの継承者と目される要因だろう。

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高森郁哉

4.0 【”お前の父は他人の気持ちを考える負け組だ。他人を思いやるな、と腹黒い狐と呼ばれる金持ちの老人は僕に言った。”今作は一人の少年が、背反する生き方をする父と老人の狭間で人生を学ぶ物語である。】

2025年10月10日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■台北郊外に優しく他人を気遣う父リャオタイライ(リウ・グァンティン)と2人で暮らすリャオジエ少年(バイ・ルンイン)。
 倹約しながら、いつか自分たちの家と亡き母と臨んだ理髪店を営むことを夢見ている。
 ある日、リャオジエは“腹黒い狐”と呼ばれる地主・シャ(アキオ・チェン)と出会う。その出会いが、リャオジエに人生は如何に生きるべきかを考えさせることになるのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・今作で印象的な人物は、アキオ・チェン演じる“腹黒い狐”と呼ばれる地主・シャである。
 相当に、悪い人物かと思いきや、彼は高級車を待たせて屋台でササっと飯を食べるし、母をゴミ捨て場のモノ拾いの際に破傷風で失っていたりと、貧しき出の人物だと分かって来るのである。

・この、シャが友人に苛められて、トボトボ歩くリャオジエ少年に車中から声を掛けて来た理由は、観ていればすぐに分かる。
 それは、シャにとってリャオジエ少年は、且つての自分だったからである。

・シャは、バブル時代に株、土地、絵画で儲けた人物として描かれるが、彼には絵画の良さを見分ける眼が無い。だが、リャオジエ少年の若き父リャオタイライと亡き母と、自分の母が亡くなった際に、同じ病院のエレベーターでその背中を見た際に、喜ぶ妻を制する姿を見て、”この男は、自分の悲しみを感じ、はしゃぐ妻を制したのだ。”と感じる事は出来るのである。そして、その後の苦労からその事を、リャオジエ少年に告げ”お前の父は、他人の気持ちを考える負け組だ。”と告げるのだが、その顔は何処か柔和なのである。
 それはそうであろう。彼自身がその素養を持っているのだから。

・リャオジエ少年は、父の生き方と、シャの生き方の狭間で悩み、父に反抗したりするのだが、クリスマスには父から自転車を贈って貰い、二人で夜道を笑顔で走るシーンを観ていると、父の事が大好きなのであろう。

■物語のメインストーリーには直接的には関係ないが、今作ではリャオタイライの学生時代の女友だちだったヤンジュンメイ(門脇麦)が、しばしば、リャオタイライが務めるレストランに一人で来て、沢山の御馳走を頼みながらも、殆ど手を付けずに帰るシーンが描かれる。
 彼女は、経済的に恵まれていながらも、幸せではない人生を送っている人物として描かれているのである。これは、シャの生き方を示しているとも言えるのである。

<そして、リャオジエ少年は成長し、建築家として成功している。
 観ていると、彼の生き方は、他人の気持ちを考えながら、自分の利も得るという”父の生き方と、シャの生き方”の両方を実践している事が分かるのである。
 今作は、一人の少年が背反する生き方をする父と老人の狭間で人生を学ぶ物語なのである。>

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NOBU

4.0 とても上質な映画

2024年12月8日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:その他、映画館

とても上質な映画

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marion

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