「踏み上げた瞬間の火柱を保有した状態で見ていたら失禁してしまうと思うよ」ダム・マネー ウォール街を狙え! Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
踏み上げた瞬間の火柱を保有した状態で見ていたら失禁してしまうと思うよ
2024.2.2 字幕 TOHOシネマズ二条
2023年のアメリカ映画
原作はベン・メズリックの『The Antisocial Network(2021年)』
実際に起こった「ゲームストップ株の空売り事件」の内幕を描いた金融映画
監督はグレイグ・ギレズビー
脚本はローレン・シェイカー&レベッカ・アンジェロ
原題は『Dumb Money』で「愚かな投資」という意味
物語の舞台は、アメリカ各地
2020年のコロナ禍の冬頃を起点として、ヘッジファンドの空売りが発覚し、それが踏み上げを喰らった時期を描き、さらにプラットフォームの閉鎖、株取引に関する不正などが疑われて、アメリカ下院議員で問題視される様子を描いていく
フロリダ州マイアミにて、ある物件の内観をしていた投資会社メルビン・キャピタルの創業者ゲイブ・プロトキン(セス・ローゲン)は、コネチカット州グリニッジにいるポイント72のCEOかつ友人のスティーブ・コーエン(ビンセント・ドノフリオ)からある一報を受ける
それはコロナ禍の業績悪化につけ込んで空売り(ショート)をしていた「ゲームストップ株」が高騰しているというもので、何者かが株を買い集めて、損失が膨らんでいるというものだった
ゲイブはフロリダにいるシタデルLLCのオーナーであるケネス・グリフィン(ニック・オファーマン)に泣きつき、資金援助を受けることになった
彼はその金でさらに空売りを仕掛けるものの、株は何者かに買われ続けていて、さらに損失が膨張しつつあったのである
その株を購入していたのは、保険会社マスミューキュアルの金融アナリストであるキース・ギル(ポール・ダノ)で、彼はプラットフォーム・レディットにて「ローリング・キャッツ」というハンドルネームで、金融解説の動画をアップロードしていた
また、彼は購入した株式を公開し、その損益は誰でも見られるものになっていて、彼の理論を正しいと思った個人投資家が、こぞってゲームストップの株を買っていたのである
その中には、生活の質が上がらずに悩んでいる看護師のジェニー(アメリカ・フェレーラ)や、ゲームストップ社の販売店のアルバイト・マルコス(アンソニー・ラモス)、テキサス大学の学生リリ(Myha‘la)もいた
リリが投資をしていることを知った友人のハーモニー(タリア・ライダー)なども加わり、ゴミ株同然だったゲームストップの株は鰻上りに上昇していくのである
その後、株価は踏み上げ(信用取引の買い戻しを巻き込んで上昇する相場のこと)にて一気に上昇し、メルビル・キャピタルの負債が日に日に増してくる
そんな折、レディット(サブレディットのWSB)が閉鎖され、さらに個人投資家が使用していた株式プラットフォーム「ロビンフッド」では、ゲームストップ社の株が「売り以外不可」という状況になってしまう
それによる狼狽売りが起きて株価は乱高下し、投資規制を行なったロビンフッドへの非難が集中してしまう
そして、それを問題視した下院議員による公聴会が行われ、キースたちはオンラインにて意見陳述を行うことになったのである
ラストでは、実際に行われたオンライン公聴会の模様が合成され、そこで何が語られたかが描かれていく
現時点では「係争中」のようだが、ロビンフッドは株式操作の疑いで告訴されまくっていて、ケネス・グリフィンと操作前日に会っていたというきな臭い証拠まで飛び出している
訴訟がどうなるかは不明瞭だが、公開株を超えた140%の空売りが発生しているという状況がさらに踏み上げによるジャンプアップを支持した要因になっている
映画では個人投資家のみが参戦しているように描かれているが、実際にはメルビン・キャピタルの空売り額に匹敵するだけのヘッジファンドの流入があった
個人のSNS発信がヘッジファンドを動かした格好になっていて、そこで個人投資家だけを梯子から外したロビンフッドは糾弾されて然るべき存在であると思う
映画は、ある程度株式売買の知識は必要で、空売りと踏み上げがわからないと何が起こっているかはわからないと思う
とは言え、ヘッジファンドがめっちゃ損しているというのはわかるので、その顔面蒼白ぶりと鬼嫁(Olivia Thirlby)の形相を堪能できればOKなのかもしれません
いずれにせよ、個人的には株式売買も普通にするし、ヘッジファンド関連の映画はたくさん見てきたので知識に困ることはなかった
それよりも、SNSで拡散される動画の方が面白そうだなと感じ、キースは読ませる文章を書いていたことの方が感銘だった
株式操作によって利益を得ているヘッジファンドが個人発の発信で打ち負かされるという異例の事態であるが、参加したかったというのが率直な感想である