ダム・マネー ウォール街を狙え! : 映画評論・批評
2024年1月30日更新
2024年2月2日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
コロナ禍、全米を熱狂させた「ゲームストップ事件」とは、一体何だったのか?
これは、ニューヨーク証券取引市場に上場する、ある株式銘柄に関して実際に起こった出来事です。「ゲームストップ社」(GME)というゲームの販売店を経営する会社の株価が、ある日突然8倍に跳ね上がります。会社の業績に何か特別なことが起こったわけでもないのに。その後、株価は一気に8分の1に暴落。そこからまた6.5倍上昇するというジェットコースターのような動きを見せました。その激しいアップダウンの裏側で起こっていた出来事を描いたのが、映画「ダム・マネー」です。
日本でも、かつてライブドアとフジテレビが繰り広げた、ニッポン放送株をめぐる仕手戦が記憶に新しいところですが、今思えばあれはフジテレビの経営権を巡るガチな攻防でした。ところがこのGME株の案件は、全然性格が違います。ひと言で言えば「SNS時代の相場ゲーム」みたいな実に軽いノリなんです。軽いんですが、波及効果は絶大でした。食いついたのは、圧倒的に若者です。
背景はこんな感じです。
コロナ禍で、世界中の人々が否応なしに自宅で軟禁状態に。
→「筋トレにハマる人」「料理にハマる人」「ゲームにハマる人」など色んなことにハマる人が現れた。
→「投資にハマる人」「投資を始める人」も多数現れた。
それは、ある種の必然だった。何故なら;
→「野球やアメフト、サッカーなどのプロスポーツ」は全部中止(再開しても無観客)。
→「映画館」「ライブ」「カラオケ」などのエンタメ施設は全部休業。
一方、証券取引所だけは「通常営業」していた。そして、そこに現れたのが;
→「GME株をこよなく愛するインフルエンサー」が降臨。Reddit掲示板とYouTubeを活用して情報発信。
→「YouTubeで実績報告」が日課。自分がGME株をいくらで買って、いくら儲かったか正直に共有。
→「コロナ禍でヒマ」だった米国民が食いつく。その情報を基にこぞってGME株に殺到。
→「ロビンフッド」というスマホアプリが強烈な援軍に。ゲーム感覚で取引完了、しかも手数料無料。
この映画を楽しむのに、投資の知識はあまり必要ありません。「空売り」がどういう取引であるかは理解しておいた方がいいですが、それぐらいです。そして、これから資産形成を目論む人たちにとって、この映画は何の役にも経ちません。投資に役立つ教訓は何も得られないと言っていい。
だけどこの映画は、かなり大きめの達成感を伴った、痛快な一作であることは間違いありません。
私個人としては、大変貴重な映画を見たという感想です。具体的な収穫は;
→「GME株暴騰」の震源地が正確に分かったこと。
→「4大ネットワーク」もGME株の動向に注目し、頻繁に報道していたことが判明。
→「ロビンフッド」アプリの革新性と同社の胡散臭さがヴィヴィッドに伝わったこと。
→「アメリカ人はTikTokが大好き」なんだということが嫌というほど分かったこと。
→「ウィンクルボス兄弟」(Facebook創業時に、ザッカーバーグを訴えた双子の兄弟)がエグゼクティブプロデューサーとしてクレジットされていたこと。
最後に、主人公キース・ギルの妻役を演じたシャインリーン・ウッドリーの落ち着いた態度、夫に寄り添い叱咤激励する姿が印象的だったことをつけ加えておきます。主人公の持ち株に、数千万ドルもの含み益が出ていたら、普通は「今すぐ全部売って!」ってなりますよね。実際に、両親や兄弟は「売れ売れ攻勢」に出ますが、妻だけは完全に夫の決断をサポートします。実は、これこそがこの映画の唯一の教訓なのかも知れません。「投資家とその家族は、投資の成績について一喜一憂しない」みたいな。
キース・ギルとその家族は、その後どんな人生を送っているのでしょう? 3年後ぐらいに、ふり返りのドキュメンタリーとか作って欲しいですね。それとは別に、ウィンクルボス兄弟の映画も早く見たい。いろいろ楽しみが増えました。
(駒井尚文)
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