「新しい価値観に気づく」87分の1の人生 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5新しい価値観に気づく

2024年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

原題は「A good parson」
アダムズが10年間続けた禁酒を破り捨て、孫のライアンの行方を追い、酒で酔いつぶれている16歳のライアンと一緒に寝ていた男を見て嘆いた言葉に中にこの「オレは良い人間だ」というセリフが登場する。
心の叫びであり本心であり、神に向けた怒りでもある。
「神に公平になれとは言わないが、あまりにも無慈悲だ」
娘夫婦を事故で亡くし、その子供を引き取ったものの、素行が悪くなってしまい高校も退学しそうになっている。
昔酒を飲んで息子を殴って右聴覚を失わせたことでやめた酒
その息子の結婚直前に事故で死んだ娘夫婦
優秀だった孫の非行
神はどこまでオレを不幸の底に落としたいのだ!
ライアンといた男に銃を突きつけたが、思いとどまる。
同時に、ライアンと一緒にいたアリソンを断罪する。
「娘を殺したのはお前だ。お前がスマホを見た所為でショベルカーを避けるための時間が失われた」
アメリカ人の思考はストレートだ。
腹の中に抱えていることなど到底できないのだろう。
このアダムズの本心の叫びが、この作品の本当のタイトルとなっている。
オレは良い人間なのになぜ?
誰もが考えるこの問いかけこそが、この作品が焦点にしていること。
さて、
日本でのタイトルは「87分の1の人生」
これもまた作品の中の重要なポイントだ。
「その小さな世界は、自分の理想の世界だ」
「現実は違う。思い通りにいかない」
なかなかいい具合にタイトルをアレンジしたと思う。
さて、
現実は変えられない。
変えることができるのは「私の思考」だけ
この作品の核心がこれだろう。
主人公アリソン
彼女は事故を起こし同上者のアダムズ夫妻が死亡した。
アリソンはその原因はショベルカーが道に出てきたからだという。
彼女はその所為でネイサンとの婚約を破棄する。
当時の状況とショックがそうさせたのは間違いない。
しかし彼女の認識は多くの人がそうするのと同じで、「自分は悪くなかった」という考え。
そしておそらくその自分で作り上げた正当性と、事実関係の相違を一番よくわかっているアリソン自身によって、心のバランスを著しく損なってしまうことになる。
それが鎮痛剤への依存
どこまでも自分をごまかそうとする行為と真実とがアクセルとブレーキを一緒に踏んだような状態を作り出す。
アダムズ
元警官という職業病 息子に対する行き過ぎた暴力
息子の聴力を奪ってしまった行為と酒 酒の所為
酒がそれをさせたのだろうか?
鉄道模型に込めた思い。
父との確執 ベトナム戦争 ネグレクト
息子に対する執着 暴力 障害
酒を飲んだら、後のことは記憶にない。
そんな自分
禁酒とアルコホリックアノニマスへの参加
禁酒に成功したのに起きた事故 娘夫婦の死亡 そしてネイサンの婚約破棄
それでもまだ押し殺し続けた神に対する非難
やがて、優秀な孫の素行に問題が続出し始める。
そんな時にアルコホリックアノニマスに表れたアリソン
事故原因に関する無責任な認識を続けているアリソンに対する怒り
さて、
確かにアダムズはアリソンに手を差し伸べた。
変わり果てたアリソンを見て、かつての自分自身を重ねたのだろうか。
「私は病気だ」
この認識こそ回帰への第一歩なのかもしれない。
「私は病気なんかじゃない 少し薬に依存しているだけ」
この自分を擁護する認識こそ、回帰を邪魔する原因
アリソンはアダムズに断罪されたことでそこにようやく気付く。
父の形見のロレックスを売って施設に入院する。
ほぼ回復した時に訪問したネイサン
そしてようやく彼に謝罪することができた。
あの日思い描いた未来はやって来なかった。
でも当時の自分自身を知り、それらをすべて赦すことができた。
アリソンは新しいアノニマスグループのリーダーになったのだろう。
それを植福するように訪れたアダムズ
そして彼の死
鉄道模型に置かれた手紙には、まだ若いライアンを助けてやってほしいと書かれたあった。
いがみ合うのではなく助け合うこと。
恨みつらみを言い合うのではなく、許しあう言葉を紡ぎだすこと。
アメリカ人も自己主張こそが正しいという考えから、このように歩み寄ることの大切さを考え始めたのだろう。
人生を鉄道模型のように俯瞰すれば、あの時本当はどうしたかったのか見えてくる。
それは単なる理想かもしれないが、まずはその理想を想像することから始めよう。
そうすれば、自分が何を望んでいるのかわかる。
それを毎日思い描くことで明日が見えてくるのだろう。
中々すばらしい作品だった。

R41