劇場公開日 2023年4月7日 PROMOTION

  • 予告編を見る

ザ・ホエール : 特集

2023年3月27日更新

【心震わす壮絶な映画】「ハムナプトラ」俳優が
体重272キロ、余命僅かの男に…人生最期の数日で、
かつて捨てた娘と絆を取り戻せるか?
今観るべき“究極の傑作”を紹介

画像1

2023年3月13日(日本時間)、第95回アカデミー賞授賞式。

「And, the Oscar goes to…Brendan Fraser, 『The Whale』」

主演男優賞がブレンダン・フレイザーに贈られた瞬間、私たち映画ファンの歓喜が爆発した。

フレイザーが主演し、オスカー像を手にした映画「ザ・ホエール」が、4月7日から公開される。フレイザーは「ハムナプトラ」シリーズで世界中の熱狂的な人気を獲得しながら、私生活の不幸により表舞台から姿を消していたが、今作で見事な復活を果たしたのだ。

画像2

彼が体重272キロ、余命わずかの男に扮したその物語は、まさに“今観るべき傑作”と断言できる。舞台は街の片隅にひっそりと建つアパートの一室、ある男の人生最期の数日間。“かつて捨てた娘”との絆を取り戻せるか――。

なんとしても映画館で観てほしい理由を、本記事でたっぷりと解説していこう。本当に心を震わす映画体験をしたとき、人は立てなくなるのだと、筆者は今作を観て改めて痛感した。


【予告編】僕は信じたかった。

【超注目作】「ハムナプトラ」俳優が復活&大変ぼう!
アカデミー賞2部門受賞の壮絶ヒューマンドラマ

画像3

もともと今作はとてつもなく注目されており、映画.com編集部の面々も熱視線を注いでいた。そのワケは、主演俳優、監督、そしてストーリーにあった。


●ストーリー:体重272キロ、余命僅かな男の、人生最期の5日間
画像4

主人公・チャーリー(ブレンダン・フレイザー)。ある不幸な出来事から、現実逃避するように部屋から出なくなってしまった。生計は大学のオンライン講座の講師として立てているが、健康を損ない、体重増加により歩行器なしでは移動もままならない。それでも頑なに入院を拒み、唯一の親友でもある看護師リズ(ホン・チャウ)に頼っている。

そんなある日、チャーリーは病状の悪化により、自らの余命が幾ばくもないことを悟る。人生を精算するときがやってきた。離婚して以来、長らく音信不通だった17歳の娘エリー(セイディー・シンク)との関係を修復しようと決意する。

ところが家にやってきたエリーは、学校生活と家庭で多くのトラブルを抱え、心が荒みきっていた……。


●特徴:今観るべき、強烈な室内劇
監督は「レスラー」D・アロノフスキー、アカデミー賞2部門受賞
画像5

今作でまず注目してほしい特徴は、物語が“アパートの一室で展開される”点だ。劇作家サミュエル・D・ハンターによる舞台劇を原作としており、観る者の興味と想像を強烈に駆り立てる室内劇が繰り広げられる。

演出の手腕がひときわ問われる内容だが、監督は緊迫感たっぷりの濃密な映像世界で知られるダーレン・アロノフスキーなだけに、品質に疑いの余地はない。「レスラー」でベネチア国際映画祭の金獅子賞を獲得し、「ブラック・スワン」で第83回アカデミー賞の監督賞にノミネートされた名匠が、原作に惚れ込み、「ミッドサマー」などのA24とタッグを組み創出した「ザ・ホエール」は、生きることについての根源的な問いを投げかけるのだ。

画像6

第95回アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞も受賞し2冠を達成。メディアから「どう考えても素晴らしい傑作」(AWARDS DAILY)などと激賞されており、ゆえに映画ファンに優先して鑑賞してもらいたい重要な一作だと言える。


●注目:主演は「ハムナプトラ」のブレンダン・フレイザー
私生活の不幸→待ち望まれた“復活”に、世界中から祝福の嵐
画像7

日本を含む世界中の観客を最も驚かせ、胸を最も熱くする要素。それが主演ブレンダン・フレイザーの存在だ。

「ハムナプトラ」シリーズなどで屈強な肉体と甘いマスクを魅せ、ハリウッドのトップスターに登り詰めながらも、心身のバランスを崩し表舞台から遠ざかっていたフレイザー。そんな彼が奇跡のカムバックを果たした今作では、「“余命わずか”の孤独な男が、疎遠だった娘との絆を取り戻すべく奮闘する姿」を演じ、心重ねる。さらに全身に特殊メイクを施し、体重272キロの巨体に大変貌する“渾身の役作り”を経ているとあれば、もう情動を禁じえない。

画像8

事実、その復活劇と魂の熱演に対し、世界中から祝福の雨あられが降り注いだ。今作が初上映されたベネチア国際映画祭では約6分間のスタンディング・オベーション。加えて「ハムナプトラ」シリーズで共演したドウェイン・ジョンソンらも激励のコメントを寄せ、改めてフレイザーがいかに愛され、応援されてきたかを明示した。

海外メディアは「ブレンダン・フレイザー生涯最高の演技」(TIMEOUT)、「フレイザーの人間味溢れる演技に圧倒される」(THE HOLLYWOOD REPORTER)などと惜しみなく賞賛し、第95回アカデミー賞は並み居る名優をおさえフレイザーに主演男優賞を授与した。これらの事実は彼の演技が“絶対に観なければならない領域”であることを、何よりも雄弁に物語っている。


【実際に鑑賞】言葉にならないほど壮絶な展開…しかし
「目撃できて僥倖(ぎょうこう)だった」と確信できる“究極の傑作”

画像9

そこまで注目していた作品を、実際に観てどうだったのか? 映画.com編集部が鑑賞して感じた“熱”を存分にこめてレビューしていこう。この作品以外では得られない感情が、本編のいたるところで噴出した――。


●[物語の衝撃]密室、なのに無限に広がる
“人生のアディショナルタイム”を生きる主人公に、共感し深く没入する
画像10

まずもって驚いたのは、そこまで広くないアパートでのワンシチュエーションなのに、宇宙的な広がりをみせる物語展開だった。

映画開始冒頭、主人公のチャーリーは1人で過ごしているときに発作が起き、誰にも知られずに死ぬ……はずだった。息絶えそうになったその瞬間、ある宗教の伝道師の男が、この地にやってきたばかりだというのに偶然、チャーリー宅を訪問したため、彼はなんとか一命を取り止める。

画像11

つまり、チャーリーは予定されていた死を回避し、人生の追加時間=アディショナルタイムを与えられたのである。そこで最後の願いをかなえようと思いたち、“疎遠だった娘との絆”を取り戻そうとするとは、なんとも胸をアツくさせてくれる。

ところが、事はそう順調には進まないからなお面白い。チャーリーが娘と疎遠になった理由は、なんと“彼がボーイフレンドと暮らすことになり、妻と離婚したから”だったのだ。シンプルに思えた室内劇に複雑な人間模様が挿入され、作品の多層的なテーマが浮き彫りになり、さらに想像もつかない事態へと発展していく……。

画像12

そして何より、ブレンダン・フレイザーの演技がすさまじく、物語を信じられないほど素晴らしいものに昇華している。特殊メイクをまとった外見はもちろん、内面世界の豊かさにも舌を巻く。普通ならヤケになる状況でも、一匙のユーモアを忘れない明るい性格。しかし人生で背負ってきた苦悩はときに堪えきれぬように噴出し、穏やかな言葉の端々に染み込んでいく。身振り手振りやセリフだけでなく、ソファに座るその全身だけで観客の心に直接主人公の悲しみ(そして希望)を伝えていく演技は、圧巻の一言に尽きる。

――大掛かりなVFXやアクションなどの“迫力の映像”ではなく、物語の素の力強さと展開の巧みさ、フレイザーの演技によって、重りをつけて海の底へと沈んでいくように素早く、深く没入させられた。観れば観るほど、稀有な作品であることをひしひし感じさせられる117分間だった。


●[実はサスペンス・アクション?]
ただ静謐(せいひつ)なわけじゃない 常に高揚と緊張がピンと張り詰める
画像13

とはいえ、鑑賞するなかでずっと、アクションやサスペンスによく似た興奮も感じていた。というのも、今作は密室のヒューマンドラマでありながら、まさにアクションやサスペンスの要素が隠し味のように潜んでいるからだ。

たとえばアクション。主人公がソファから歩行器に身体を移す場面は、さながら崖のふちにぶら下がるヒーローが、全力でよじ登り生還するように見える。体重200キロオーバーの人間の生活は常にアクション映画なのだと気づき、日常の所作もハラハラしながら見入ってしまう。

さらにサスペンス。なぜ彼はここまで太ってしまったのだろうか? 自宅は(友人の助けがあったとしても)整頓されているし、どちらかといえば、まあ清潔な部類に入る。知的な人間性からもうかがえる通り、彼が自堕落だから太ったのではないのだ。ではなぜ――? このことが物語の謎として残され、徐々に明らかになっていく構造はまさにサスペンス映画さながら。だからこそ興味が尽きず飽きることなくエンドロールへと疾走していけたのだ。


●[テーマに慟哭]人は誰も救えない…
多彩な登場人物が示す“答え”と“結末”を観て、言葉を失った
画像14

人は誰かを救うことができるのか? 「ザ・ホエール」は、さまざまな映画が投げかけてきたこの問いを取り上げ、「いや、救うことはできない」と意外とも言える回答を突きつける。

しかし、今作のテーマはそれで終わりではない。近年の映画が「痛みへの共感が、誰かの痛みを癒す」と繰り返し伝えてきた事実を自覚したうえで、「人は人を救えない」と宿命的に語り、しかしそれでも「目の前の人を救おうと抗う人々」を描くのである。

画像15

やがてこの孤独な男の物語は新たな境地にたどり着く。ラストシーンを観た時、筆者の頭にはうまく感想が出てこず、文字通り“言葉を失ってしまった”……それくらいの衝撃を受けたのだ。

知り合いの映画ライターも、SNSで「鑑賞後にしばらく席から立てなかった」とつぶやいていた。まさに同感だ。この感情は1年に1本あるかないかの特別な感覚。鑑賞を決めかねている人には、「何はともあれ観るべきである」と力強く断言しよう。我々と同じような気持ちを味わってもらえれば幸いだ。


●[結論]今の時代だからこそ、今すぐに観るべき一本
画像16

以上、鑑賞前に期待していたポイントは、想像をはるかに超える内容だった。異色の密室劇。心震わす壮絶なヒューマンドラマ。ブレンダン・フレイザーの復活と規格外の熱演。慟哭させられるテーマとラスト。アカデミー賞2部門受賞の評価。実際に観て感じた、この生命力にあふれた蒼い衝動――。

ほかにも、こんなに“ドアの開け閉め”で胸が締め付けられる映画も他にないということや、キャストでは「ストレンジャー・シングス」のマックス役で有名なセイディー・シンクや、「アイアンマン3」「ジュラシック・ワールド」の子役で知られていたタイ・シンプキンス(成長した姿が印象的!)、「ザ・メニュー」の怪演が記憶に新しいホン・チャウ(今作でアカデミー賞助演女優賞にノミネート)らの存在にも触れたいが……ああもう、上限の文字数を大幅に超えてしまっている……!

語りたいことはそれこそ無数にありつつ、紙幅の都合でこれにて特集を締めくくらせていただく。多くの文字や論理を重ねてきたが、映画.comが伝えたいことは「アカデミー賞関連作が多く公開されるなか、この『ザ・ホエール』を、集中が最大になる映画館で絶対に観てほしい」、ただそれだけである。ぜひ、お見逃しなく。

画像17

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画評論

「ザ・ホエール」の作品トップへ