コラム:下から目線のハリウッド - 第49回
2025年3月12日更新

ビギナー必見!映像制作の基礎知識と映画業界への入り方
「沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。
今回は、素人が映画を一から作る方法と、未経験でも映画業界で働く方法を解説していきます!
久保田:まったくのド素人が、映画を一から作るにはどうしたらいいと思う?
三谷:そうですね、ひとりで映画を作る場合、どれだけ良いクオリティのものができるのか?というテーマを僕自身、追求してきたのですが、一番のコツは「音をちゃんとする」ということなんですよね。
久保田:音ですか!
三谷:映画は「映像」と「音」の2つで構成されているので、サウンドのクオリティが非常に大事になります。
久保田:確かに。いくら映像が綺麗でも、音が酷かったら観られないね。
三谷:そこでクオリティを上げていくには、映像と音を別々に収録する必要があります。
久保田:スマホじゃダメ?
三谷:スマホの録音機能だと、環境によっては素人感が出てしまい、クオリティが下がります。なので、まずはしっかり録音用のマイクを導入する必要があります。マイクを使い、できるだけ被写体の口元に近い位置で録音する。ワイヤレスマイクも有効ですね。映像と音を別々に撮るだけでも、まずクオリティは良くなっていくんじゃないかなと思います。
久保田:どんなマイクを導入すればいいの?
三谷:有名なところだとSENNHEISERのショットガンマイク「MKH 416」です。価格は10万円ぐらいしますが、音質が非常にクリアで安定していてかつプロ仕様なんです。予算がなければ、「MKE600」もおすすめですね。
久保田:それぐらい用意しなくちゃいけないのって、音はそれだけ大事ってことですよね。「デューン 砂の惑星 PART2」なんて、まさに音の映画でしたよ。

(C)2023 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
三谷: そうそう。「デューン 砂の惑星 PART2」は、IMAXの音響でこそ真価を発揮する映画でした。映像はある意味では平面にしか投射されないけれど、空間を埋め尽くして没入感を作ってくれるのが、音なんです。
久保田:映像は当然として、音で差がつく気がしますね。
三谷:そして、もう一つ大事なのが、ライティング。
久保田:ライティング?
三谷:照明のことです。普通の室内照明だと、どうしても、ぺったりとした単調な映像になってしまう。これだと120%美しい絵は撮れません。
久保田:どうして?
三谷: 普通の空間って真上からの蛍光灯照明なんですけれども、真上から光を当てると、目の下に影ができ、疲れた印象になります。照明が与える見た目の印象はすごく大事なんです。
久保田:なるほどね。素人はどんな照明を用意すればいい?
三谷:ホームセンターなどに売っている、和紙製のものに包まれた丸いランプ、チャイナボールといわれるものをいくつか用意するだけでも、雰囲気を作ることができます。
久保田:ホームセンターなら予算もかからなくていいね。
三谷:また、欧米でとくに受け入れられるのは陰影がある作品です。レンブラントなどの絵画を見て、影がどういうふうに描かれているかを参考にしながら試していただくのがいいんじゃないかなと思います。

(C)2019DiscoursFilm
久保田:なるほどね。でも一から始めるのって結構ハードル高いよな。映画業界未経験者でもできるポジションってあったりする?
三谷: 結論から言うと、たくさんあります。ただ、未経験だと、どうしても下っ端からスタートすることになる。そこをどう捉えるかですね。
久保田: なるほど。
三谷: 一番未経験者が入りやすいのは、PA(プロダクションアシスタント)ですね。雑用係ですが、現場のあらゆる部署の動きを見ることができる。どんな会話がされ、どんな意思決定がなされるのか。経験を通して、専門性が高まっていく。
久保田:確かに。
三谷:それに、撮影期間って結構長いじゃないですか。その間、同じ作業を何度も繰り返すことになるんです。だから、どんな作業がよくあるのか、どんな機材がよく使われるのか、体で覚えていくんですよね。他の部門のスタッフとも人間関係ができてくるし、自然と映画づくりのいろんなことに詳しくなっていきます。
久保田:現場に入るって大事ですね。
三谷:なので、未経験者から始めるところとしてはPAは妥当な入門点です。
久保田:その日限りのアルバイト的なスポット的なポジションってあるの?
三谷: ありますね。例えば、照明技師の助手として機材を運んだり、運転をしたりする仕事もあります。ケータリングなども、経験があれば活かせるかもしれません。
久保田:エキストラとかはどう?
三谷: エキストラの事務所に登録すれば、誰でもなれると思います。自分の生まれ持っている素材の良さや華をうまく生かせば、そこから役者を目指す道もあるかもしれません。
久保田:なるほどね。でも本当にそういう仕事をやってみたいんだったら、なんらかのアクションを取った方がいいね。
三谷:本当にそうなんですよね。ただ、どうやって仕事を得るか。これは、やはり「コネ」が重要になってきます。エンタメ業界は、求人サイトなどで公募することは少ない。身内や知り合いの紹介で仕事が決まることが多い。
久保田: コネ、ですか。正面玄関から応募は駄目?
三谷:正面玄関からの応募は、募集が終わっている可能性があるんですよね。エンタメ業界の、特に撮影現場とかそういう仕事って、エントリーシートを出して採用選考する、というような形の選考をほとんどしないんです。
久保田:そうなんだ。
三谷:「以前この人と仕事してすごい良かったよ」とか「この学生さん経験はないけどやる気ありそうな感じだったよ」というような声掛けがあって、身内である程度完結するのが一般的です。その輪の中にどれだけ入れるかが、大事だと思います。
久保田:口コミやコミュニティが重要になってくるんだな。
三谷:そうですね。映画系の大学や専門学校に行く意味って、そういうコミュニティに自分を置くことで、仕事が巡ってくる運の確率を高くするっていう機能があると思うんですよね。
久保田:確率が上がるね。
三谷:それがまさに実際にコネを使っていくとかそうやって仕事を手にしていくプロセスだと思うので、自分の置く環境を大事にするのはいいんじゃないかなって気がします。
久保田:どんな人が業界に求められる?
三谷: 映画業界で好かれるのは、結局どの業界でもそうですが、コミュニケーション能力が高く、頭の回転が速い人ですね。非常識でなく、場の空気を読み、人に気遣いができる。クリエイティブな才能よりも、まずはそういう基本的な能力が求められます。
久保田: やっぱりそうですね。
三谷: つまり、未経験者が映画業界に入る道はたくさんあります。まずは、自分に合った道を見つけて、行動に移すことが大切ですね。
久保田: とりあえず、応募してみよう!もしくは、太いコネを見つけよう!
三谷: そうですね。それぞれの場所で、できることを見つけていきましょう。
この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(S09-#10 ビギナーのための映像&映画製作のポイントとは?)でお聴きいただけます。
筆者紹介

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。
Twitter:@shitahari