「豚と軍艦」「ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第44回

2012年12月27日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「豚と軍艦」

今村昌平の株が、私のなかで上がっている。それも、1960年代の彼の作品。反騰というべきか、しばらく低迷していた株価が、このところ息を吹き返しているのだ。

仁義なき戦い」を見直し、「一条さゆり 濡れた欲情」を見直していると「豚と軍艦」にぶつからざるを得ない。今村昌平神代辰巳→笠原和夫と連なる系譜があると考えるのは強引すぎるだろうか。私は、彼らの体質に共通点を見出す。とくに「豚と軍艦」のおかしさは、ひとつの原型と呼べそうだ。

舞台は戦後の横須賀である。軍艦が入ると街はにぎわう。それでも零細ヤクザの日森組は、ハウス(売春宿)の経営がうまく行かず、養豚業でかろうじてシノギを立てている。

日森組の使い走りが欣太(長門裕之)だ。欣太は兄貴分の鉄次(丹波哲郎)に忠誠を誓い、ほかの組員にこき使われている。欣太の恋人の春子(吉村実子)は、こんな街を出たくてうずうずしている。

笑いの基礎は、ヤクザが養豚をするという設定にある。豚とヤクザは、妙に相性がよい。しかも脇役が芸達者ぞろいだ。加藤武小沢昭一大坂志郎あたりが額を寄せて悪だくみをすると、それだけで腹の皮がよじれる。駄目押しは丹波哲郎の怪演だ。胃潰瘍を胃癌と勘ちがいし、飛び込み自殺を図る場面(隣に、「家中ニコニコ明るい暮らし」と書いた広告看板が立っている)など、実におかしい。

惜しむらくは、もっと盛り上がるはずだった豚の暴走が迫力不足に終わったところだろうか。まあ、これはご愛嬌としておこう。それにしても、1960年代の風景や俳優の肉体は、本当に映画と相性がよい。もちろん監督の腕次第なのだが、当時のイタリア映画や日本映画を見直すたび、私はこの事実を痛感する。ポストモダンの時代は、風景や肉体の彫りを浅くしてしまった。

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豚と軍艦

BSプレミアム 1月15日(火) 13:02~14:51

監督:今村昌平
脚本:山内久
撮影:姫田真佐久
音楽:黛敏郎
出演:長門裕之吉村実子三島雅夫南田洋子大坂志郎加藤武小沢昭一西村晃東野英治郎丹波哲郎
1961年日本映画/1時間48分

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「ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」

巨匠マイケル・マンの劇場用長編映画デビュー作 巨匠マイケル・マンの劇場用長編映画デビュー作 (C) 1981 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC..
All Rights Reserved.
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ドリルが眼につく。回転鋸が目立つ。バーナーが存在を主張する。

ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」は道具が活躍する映画だ。火花を放つ道具。炎を上げる道具。目的は金庫破り。そのためには壁や天井にも穴を開けなければならない。

主人公のフランク(ジェームズ・カーン)は腕利きの金庫破りだ。孤児院で育ち、刑務所暮らしが長く、いまはシカゴで中古車ディーラーと小さなレストランを営んでいる。もちろん仮面だ。ただ彼は、泥棒稼業に嫌気がさしている。足を洗い、好きな女と所帯を持ち、静かに暮らしたいと考えている。

よくある設定だ。そこに組織がからむ。ボスのレオ(ロバート・プロスキー)は、悲しげな顔つきをしながら、煮ても焼いても食えない男だ。レオはフランクを大きなヤマに巻き込む。ロサンゼルスの銀行から400万ドル相当のダイヤモンドを盗み出す計画だ。フランクは乗る。家や養子までレオに世話をしてもらった以上、いやとはいえない。しかも成功報酬は80万ドル以上。

あとは、おおよそ察しがつくだろう。監督のマイケル・マンは、ソリッドな映像と無駄のない語りを得意とする人だ。1981年公開の映画だが、すでにその特性は光っている。雨に濡れたシカゴの夜景は官能的だし、車や道具を駆使した場面の運動感は、見る側の眼に鋭く刺さってくる。

わけても注目すべきは、「作業」の場面の鮮烈さだろう。冒頭の10分、あるいは後半に出てくる金庫破りの場面で、マンは俳優にほとんど台詞を話させない。代わりに聞こえてくるのは、金属を焼く音とタンジェリン・ドリームの音楽だ。青と琥珀の光も、ここでは素晴らしく印象に残る。映画好きなら、ここで酔うはずだ。ドラマ好きには、ジェームズ・カーンの侠気を期待していただきたい。

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ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー

WOWOWシネマ 1月28日(月) 21:00~23:15

原題:Thief
製作総指揮・脚本・監督:マイケル・マン
製作:ジェリー・ブラッカイマーロニー・カーン
撮影:ドナルド・ソーリン
音楽:タンジェリン・ドリーム
出演:ジェームズ・カーンチューズデイ・ウェルドウィリー・ネルソンジェームズ・ベルーシロバート・プロスキーデニス・ファリナウィリアム・ピーターセン
1981年アメリカ映画/2時間3分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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