コラム:佐藤嘉風の観々楽々 - 第8回
2008年8月15日更新
第8回:「グーグーだって猫である」
ありふれた生活への愛おしさに包まれる
先日、僕のところへ嬉しいニュースが届きました。公私共にとっても仲良くさせてもらっている音楽仲間「ハミングキッチン」の「パノラマの丘」という楽曲が、とある映画の挿入歌に採用されるとの事。ハミングキッチンとは、イシイモモコ(ボーカル)と眞中やす(ギター)の2人で構成され、非常に音楽的かつ有機的なサウンドを作り上げているユニットです。その日本人離れしたセンスと技術力は各地で高く評価されています。
そんな彼らの楽曲を挿入歌に大抜擢したセンスの良い監督とは、「ジョゼと虎と魚たち」や「メゾン・ド・ヒミコ」などで有名な犬童一心監督。そして今回の作品とは、大島弓子の自伝的エッセイ漫画を原作とした映画「グーグーだって猫である」です。
小泉今日子演じる主人公、小島麻子は吉祥寺に住む天才漫画家で、とっても猫好き。ある日飼っていた愛猫サバが死んでしまい、それからというもの仕事にも没頭出来ない日々が続いてしまいます。しかしその後、グーグーというとても可愛い猫に出会い、再び仕事も恋愛も彩りを戻してゆくのですが、ある時麻子は思いもしない病に倒れてしまう。
そんな何気ない生活の中に潜む人間味あふれるストーリーと、生と死の間で見る生きる事への愛おしさに溢れた作品です。
他のキャストもとってもユニークで、上野樹里、加瀬亮などに加え、森三中、楳図かずおなど異色の組み合わせも新鮮です。
僕も早速観てきましたが、まず驚かされたのは小泉今日子の演技力。見事でした。音楽においても共通して言える事だと思いますが、こういった何気ないものへの表現、自然体であるものへの表現というのは、非日常的な表現に比べ、捉えがたく表現が難しいものであると思います。例えば音楽で言えば派手なロングコートに身を包み、髪の毛をピンク色に染め上げて、なんならモヒカンにして、目の周りを黒く塗りつぶしてしまえば、僕でもその気になっちゃって、シャウトしちゃうでしょうし、またはダボダボのジーンズと大きめのシャツを着て、首にはごっついシルバーネックレスを巻いてサングラスでもかけた日には、やっぱりラップでチャケラッちゃうと思いますが、普段着で「さあ、何かやれ!」って言われると逆に何をやったらいいんだか分からなくなってしまう。素の自分との距離が近すぎるから。しかしそこを小泉今日子は、見事に演技しきっていまして、脱帽してしまいます。
吉祥寺という町で繰り広げられている何気ない生活の中で、まるで自分がそこに暮らしているような錯覚を覚えつつ、見終わった後はありふれた生活への愛おしさに包まれていましたよ。
捲し立てるようなアレンジではなく、シンプルで、かつ面白みにあふれたアレンジ。ハミングキッチンの「パノラマの丘」がとっても似合う作品でした。
筆者紹介
佐藤嘉風(さとう・よしのり)。81年生まれ。神奈川県逗子市在住のシンガーソングライター。 地元、湘南を中心として積極的にライブ活動を展開中。07年4月ミニアルバム「SUGAR」、10月フルアルバム「流々淡々」リリース。 好きな映画は「スタンド・バイ・ミー」「ニライカナイからの手紙」など。公式サイトはこちら。