コラム:佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代 - 第102回
2022年3月1日更新
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第102回:Tinder詐欺師 恋愛は大金を生む
Netflixで話題沸騰しており、信じられないぐらい面白い。サイモン・レヴィエフと名乗り、マッチングアプリのTinderで女性を釣り上げては大金を巻き上げ続けていた詐欺師を追いかけたドキュメンタリーである。

被害女性3人が顔を出して出演しており、その手口をつぶさに証言している。レヴィエフはイケメンで高級ファッションをまとい、世界的に有名なダイヤモンド商の御曹司だと名乗っている。投稿されている写真は、ロールスロイスやプライベートジェット、豪華なオフィスでのミーティング、派手なパーティー……。
作品で紹介されてるレヴィエフのさまざまな写真や動画を見ると、「これは詐欺の映画である」という先入観がなければ、たしかに裕福で魅力的な人物に見える。
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日本でも最近、「国際ロマンス詐欺」と呼ばれる詐欺事件が注目されている。マッチングアプリで海外のイケメン詐欺師に騙され、大金をかすめ取られる日本人女性が多発しているといい、著名な女性漫画家が7500万円の詐欺に遭ったケースは、NHKでも報じられて話題になった。
女性漫画家は「レディースコミックの女王」と呼ばれている人で、恋愛の達人のようなそんな人がなぜ詐欺に……と思った人は多いだろう。本作でも、登場する被害女性3人はいずれも実に明晰に経緯を証言しており、知性あふれる雰囲気の人たちだ。なぜそういう人たちがかんたんに騙されてしまうのか。

レヴィエフの手口は、わりに単純に見える。プライベートジェットや深紅のバラの花束、五つ星ホテルでのディナーで釣って、仲良くなってくると、「実はダイヤモンドの仕事で悪者に追われている」「トラブルに巻き込まれている」と苦境をにおわせる。専属運転手が殴られて血だらけになり、救急車で運ばれている写真を送ってくる。「トラブルでクレジットカードが一時的に使えなくなった。国に戻れない」と伝え、航空券をなんとか入手してくれるように懇願する。
その手口で女性たちは「彼をなんとか助けてあげよう」と現金や航空券をレヴィエフに送るのだ。しかしそれらが何に使われるかというと、レヴィエフの次の被害者を歓待するための旅行やホテルの費用になっているのである。被害の実態はさだかではないが、1万人以上が騙されているのではないかという話もあり、被害総額は1000万ドルを超えるともされている。
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詐欺でかすめとったお金を貯蓄したりなにかに投資するのでもなく、ただひたすら豪遊生活を続けて、次々と被害女性を入れ替えていくことだけに大金を費やしていく。まさに自転車操業でしかなく、凡人には「そんな綱渡りの生活続けてて心安まらないんじゃないか」という感想しか沸かないが、もはやそのスリルとサスペンスこそがこの天才詐欺師の生き甲斐であり究極のエンタメになっているのかもしれない。
本作の後半では、聡明な被害女性3人が一転してレヴィエフに反転攻勢をかけていく様子がジェットコースターのように描かれていて、この後半こそが超絶面白くて本作の醍醐味になっている。
そして観終わったらぜひ、「Simon Leviev」の名前でネットを検索してみてほしい。さらに驚くことは請け合いである。
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■「Tinder詐欺師 恋愛は大金を生む」
Netflix映画「Tinder詐欺師 恋愛は大金を生む」独占配信中
2022年/アメリカ
監督:フェリシティ・モリス
Netflixで独占配信中
筆者紹介
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佐々木俊尚(ささき・としなお)。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社社会部、月刊アスキー編集部を経て、2003年に独立。以降フリージャーナリストとして活動。2011年、著書「電子書籍の衝撃」で大川出版賞を受賞。近著に「Web3とメタバースは人間を自由にするか」(KADOKAWA)など。
Twitter:@sasakitoshinao