コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第51回
2017年9月28日更新
まるで「アメリ」のお化け屋敷!ジュネ&キャロの展覧会がパリで開催
ジャン=ピエール・ジュネといえば「アメリ」や「ロング・エンゲージメント」、最近では「天才スピヴェット」の監督として知られるが、「アメリ」以前にフランスで絶大な人気を集めた作品が、マルク・キャロと共同で制作した「デリカテッセン」と「ロスト・チルドレン」。「デリカテッセン」は1年以上にわたってロングランを続け、「ロスト・チルドレン」はカンヌ映画祭のオープニングを飾った。そんな伝説のコンビ、ジュネとキャロの個々の作品も含めたキャリアを振り返る展覧会がパリで開催になり、話題を呼んでいる。場所はアメリの舞台、モンマルトルはサクレクール寺院の麓だ。
通常映画作家の展覧会といえば、シナリオやストーリーボードなどのドキュメント、もしくは映像作品がイメージされるものの、ジュネとキャロのコンビが特別なのは、ふたりとも大のオブジェ偏愛家であり、その作品には多くのユニークな装置が登場すること。とくにコレクターでもあるジュネの場合、自作以外の映画で使用されたものもコレクションしているほどで、手前味噌となるが、以前拙著「映画で歩くパリ」のためにジュネ監督に彼のオフィスでインタビューをしたとき、アンティークのカメラや50年代の映画のポスターなど、さまざまな貴重が所狭しと飾られているのに感銘を受けた覚えがある。そんな彼らの展覧会だけに、ここではデザイン画や衣装をはじめ、オブジェが中心となった、まるで「アメリ」のお化け屋敷を訪れるようなぞくぞくさせられる内容になっている。
たとえば「ロスト・チルドレン」の、脳のクローンを収めた水槽や船のセット、本作で衣装を担当したジャン=ポール・ゴルチエのデザイン画、「アメリ」に出てくる証明写真のアルバムや、子豚のランプなどのキュートな小物たち。なんといっても強烈なのは、ジュネがハリウッドに招聘されて撮った「エイリアン4」のコーナーだ。プロダクションデザイナー、ナイジェル・フェルプス率いるチームによるエイリアンやその卵、人体彫刻、さらにはクリス・カニンガム・デザインの人間とエイリアンのハイブリッド「ニューボーン」のモデルなどが、不気味な雰囲気を醸し出す。一方キャロのほうは、2008年に単独で監督した、日本未公開のカルトSF作品「Dante 01」の、レアなデッサン画が拝める。
それだけではない。ふたりが「デリカテッセン」の前に企画していた未完のプロジェクト、「110 En Dessous de Zero」の素材も初公開されている。ちなみに本作で彼らがいくつか撮りためたフッテージは、その後ジュネの何本かの作品に活用されているという。
こうして見ると、その異色の才能とともに、彼らがフランス映画界でいかに特異な存在であったかを、あらためて痛感させられる。ふたりの作品に関するこれだけまとまった展覧会はフランスでも初めてだそうで、映画ファンにとっては必見に違いない。来年の夏まで、たっぷり1年開催しているのも嬉しい。(佐藤久理子)
▼HALLE SAINT PIERRE(http://www.hallesaintpierre.org)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato