コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第287回
2017年11月24日更新
第287回:エマ・ストーン主演最新作は痛快なスポーツ映画にして複雑な余韻 テニス界の伝説マッチが題材
「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞主演女優賞を魅了したエマ・ストーンの新作「Battle of the Sexes(原題)」が全米公開された。本作で彼女が演じるのは実在の女子テニスプレーヤー、ビリー・ジーン・キング。1960年代から80年代前半まで活躍し、テニス史上最高のプレーヤーのひとりに数えられる人物だ。
実在の選手を題材にした映画と聞くと、子供時代のトラウマや青年時代のライバルとの出会いを経て、一流のプレーヤーとして花開くような伝記映画を想像するかもしれない。だけど、本作が焦点を当てるのは彼女の長く華麗なキャリアのごく一部。73年、女子テニス界のトップに君臨していたキングは、「Battle of the Sexes」と呼ばれる男女対抗試合をオファーされる。お相手はすでに殿堂入りを果たしている男子の名選手ボビー・リッグス。全米と全英で優勝経験があるとはいえ、とうの昔に引退している。29歳の現役女子チャンピオンが、55歳の元男子チャンピオンと本気で試合をしたら、果たしてどちらが勝つのか? この男女対抗試合は当時大きな話題を集め、全米9000万人が視聴する世紀のイベントとなった。本作は、その試合が行われた背景と意義を、ユーモアを絡めながら丁寧に描いていく。
女子ナンバーワン選手として君臨していたビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子よりもはるかに少ないことに不満を抱いていた。女子は男子に力で劣るからだと説明する全米テニス協会に対し、集客力が同じなら同額を受け取るべきとキングは主張。自分の考えが受け入れられないことを悟ると、彼女は他の女子選手とともに女子テニス協会(WTA)を立ち上げ、独自のトーナメントを主催することになる。
そんな彼女に注目したのが、ギャンブル好きで目立ちたがり屋の元チャンピオンのリッグスだ。かくして、各方面の思惑が交錯し、男女対抗試合が実現することになるというストーリー。
メガホンをとるのが「リトル・ミス・サンシャイン」や「ルビー・スパークス」を手がけたジョナサン・デイトンとバレリー・ファリスの監督コンビだから、登場人物たちが脇役まで生き生きと描かれ、ハートと笑いと散りばめられた佳作に仕上がっている。
この映画を見て驚くのは、40年以上もの昔が舞台なのに、そこで描かれる問題にあまり進展が見られないことだ。テニス界における男女の賞金格差はビリー・ジーン・キングのおかげで是正されたものの、一般社会における男女格差はなくなっていない。また、70年代にレズビアンであることを隠さなくてはいけなかった彼女は、80年代にカミングアウトをしたものの、LGBTの人たちを取り巻く環境が整ったとは言いがたい。「Battle of the Sexes」自体は痛快なスポーツ映画だけれど、こうした要素があるおかげで、複雑な余韻を与えてくれるのだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi