コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第232回
2013年7月22日更新
第232回:車の未来が手に入る!僕たちの生活を変える電気自動車「テスラ」
最近、街中でテスラモーターズのモデルSを見かける機会がぐっと増えた。モデルSは、電気自動車メーカーのテスラが手がける初のセダンで、2012年に生産が始まった話題の自動車だ。フル充電で400キロ程度の走行が可能なうえに、高級スポーツカー並の走行性能を備えており、コンシューマー・レポート誌では史上最高の99点を獲得してしまったほどだ。最低価格が7万ドル(約700万円)と決して安くはないものの、環境への関心が高い富裕層が多く住むカリフォルニア州では大人気だ。実際、メジャースタジオの駐車場にはたいてい1台は停まっている。
正直に告白すると、僕は自動車にあまり興味がなくて、スタイリングや走行性能なんかよりも、燃費やメンテナンスが楽なほうを重視する。つまり、移動手段としかみていないわけだけれど、どういうわけかテスラには強く心を惹かれている。先日、サンフランシスコまで長距離ドライブをした際も、モデルSに抜かれるたびに、その後ろ姿を目が追ってしまった。
たぶん、モデルSというクルマの素晴らしさよりも、テスラが象徴するものに僕は魅了されてしまっているんだと思う。テスラの創業者イーロン・マスクは、電気自動車という退屈で制限だらけの代物を、快適でセクシーな乗り物に変えてしまった。成熟しきった自動車業界に参入するのは相当な覚悟が必要だったろうし、これまでの道のりも決して平坦ではなかっただろう。でも、マスクにはインターネット事業で築いた巨大資産があるうえに、人類の火星移住を目指して宇宙事業を展開するほどの夢想家だ。クリーン・エネルギーに情熱を注ぐ彼は、ソーラーパネル事業を展開するかたわら、紆余曲折を経て、世にも美しい電気自動車を生み出してしまった。
僕の目には、今のテスラは「トイ・ストーリー」を生み出したころのピクサーと重なる。ピクサーが史上初の長編CGアニメーションで映画界を一変させてしまったように、モデルSは今後の自動車業界はおろか、僕らの生活までも変える可能性を秘めている。
たとえば、テスラは電気自動車の製造だけでなく、スーパーチャージング・ステーションと呼ばれる充電所の設置を急いでいる。電気自動車による長距離ドライブに対応するためで、主要都市を繋ぐ幹線道路沿いに展開している。たった20分の充電でバッテリー容量の5割を充電してしまうという優れもので、休憩をしているあいだに作業が終わってしまう。おまけにテスラのオーナーは無料で使用できる。現時点では12カ所しかないが、急いで展開しているので、年内にはテスラでの大陸横断が可能になるという。
言ってみれば、テスラはクルマの未来だ。しかも、5年や10年待たなくても、いますぐ手に入れることができる。だからこそ、所有欲を強く掻き立てられるのだ。気軽にぽんと買えるような代物じゃないんだけれどね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi