コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第215回
2013年2月25日更新
第215回:教師としても活躍!次世代の映画人を育てるジェームズ・フランコ
米パサデナにあるランガム・ハンティントンというホテルで行われた「オズ はじまりの戦い」の取材に参加した。レイチェル・ワイズやミラ・クニス、ミシェル・ウィリアムズといった豪華出演者がつぎつぎ会場にやってくるなか、会場が騒然となったのは、主人公オズを演じたジェームズ・フランコが登場したときだった。ビデオカメラを持った若い女性ふたりを引き連れた彼は、彼女たちに自分の記者会見の模様を録画させはじめたのだ。普通、こうした取材を受ける場合、セレブ側はビデオ撮影はもちろん、写真撮影ですら拒否する。だから、自ら謎の撮影隊を連れてきたフランコの行動に、現場に居合わせた記者たちは驚いたのだ。フランコによれば、ふたりの女性はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の英文科の大学院生であり、映画ビジネスの裏側を見せるために取材に同行させているのだという。噂には聞いていたけれど、本当に大学で教べんをとっていようとは、この場に居合わせるまで信じられなかった。
ジェームズ・フランコは、「フリークス学園」という学園ドラマでブレイクした。セス・ローゲンやジェイソン・シーゲル、ジャド・アパトーら、いまの米コメディ界を率いる才能が集まった伝説のドラマである。その後、「スパイダーマン」シリーズや「127時間」など、メジャーとインディペンデントの間を行き来する若手俳優として活躍しているのはご存じの通りだ。
面白いのは、俳優業と並行して、学業に力を入れていることだ。2006年にUCLAに再入学し、08年に卒業。その後、複数の大学の大学院に同時に通い、10年にコロンビア大学、11年にはニューヨーク大学の修士号を取得。現在はイェール大学の博士課程に在籍している。
さらに、ニューヨーク大学(NYU)と南カリフォルニア大学(USC)で映画制作、UCLAでは映画学科と英文学科で授業を教えている。教職に就くことになったのは、夢がかなってしまったからだと、フランコは説明する。
「UCLAを中退して、マクドナルドでバイトをしながら、演技学校に通っていたころ、たくさんの夢を思い描いていた。いつかゴールデン・グローブ賞にノミネートされるような偉大な俳優になりたい、お気に入りの監督と仕事がしたい、自分で脚本を書いて、監督をしたい、とか。幸運にもすべての夢がかなってしまったせいで、キャリアの構築とか、自分ひとりでなにかを追求することへの関心が薄らいだ。教えることは、自分の外に踏み出せるから好きなんだ」
映画やテレビの現場を体験している現役俳優だから、そのメソッドも独創的だ。大学院生向けの映画製作クラスだと、たいていは各生徒がそれぞれ独自の作品に取り組むことになる。しかし、フランコのクラスでは、全員が同じ作品に取りかかることになる。それぞれ別の作品に取りかかっていると、他人の仕事はどうしても他人事になってしまうため、建設的な意見交換が行われるとは限らない。一方、全員で同じ作品に関わっているのであれば、作品全体をより良くするために積極的に意見が飛び交う、というのが彼の理論だ。詩集や小説などを原作に、まずは全員で脚本を執筆。その後、ひとつの脚本にまとめたうえで、なるべくお金をかけずに仮の映画を製作する。そののち、仮映画を下敷きに、本番の映画を製作することになる。
フランコは役者として出演するばかりか、俳優仲間を引き連れてくる。こんな風にして出来上がったオムニバス映画の「Tar」と「Black dog, Red Dog」には、ジェシカ・チャステインやミラ・クニス、オリビア・ワイルド、クロエ・セビニー、ナタリー・ポートマンといった、ハリウッドのトップスターが出演している。学生映画にハリウッドスターが出演すること自体が奇跡で、こんな学習体験を提供しているフランコは本当にすごい。学生時代、こんな先生に出会いたかったとつくづく思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi