コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第214回
2013年2月12日更新
第214回:デビッド・フィンチャー&ケビン・スペイシーのドラマ「House of Cards」
ネットフリックスで配信がはじまったばかりのケビン・スペイシー主演の新ドラマ「House of Cards」にはまっている。デビッド・フィンチャーが製作総指揮と最初の2話の演出を手がけていたり、インターネットのみの配信で、2月1日の配信開始と同時にシーズン1の全13話が一挙公開されたりと、アメリカではいろいろ話題を振りまいているドラマである。
「House of Cards」はイギリスの同名ドラマのリメイクで、マイケル・ドブスの政治サスペンス小説が原作。恥ずかしながら原作を読んでいないし、イギリス版も見ていないのでオリジナルとの比較はできないのだけれど、とにかくこのドラマが素晴らしいのだ。
ケビン・スペイシーが演じるのは、野心的な辣腕政治家だ。大統領戦で尽力した見返りに国務長官の地位を約束されていた彼だが、新大統領によって反故にされてしまう。プライドと将来の展望を失った彼は、妻(ロビン・ライト)の勧めもあり、大統領を失墜させるための陰謀を企てる。名門新聞社でくすぶっていた若い女性記者(ルーニー・マーラの姉のケイトが熱演)の協力を得て、周到でダーティーな戦いを挑むことになるというストーリーだ。
政治の舞台裏を描いたドラマというと、アーロン・ソーキンが企画・製作総指揮を務めた「ザ・ホワイトハウス」が有名だ。知的な会話や芸達者な出演者たち、現実問題を取り込んだリアルなストーリーなど、共通点は少なくない。実際、アメリカ版「House of Cards」の企画・製作総指揮のボー・ウィリモンはソーキンと同じ劇作家出身で、「スーパー・チューズデー 正義を売った日」の元となった戯曲を手がけている。
しかし、主人公の動機が決定的に異なるために、2つのドラマが与える印象はまったく異なっている。「ザ・ホワイトハウス」は、社会をより良くしようという理想を持ったホワイトハウスのスタッフたちを描いているため、希望や理想主義に満ちている。一方、「House of Cards」の主人公の目的は他人を陥れることであるため、ひたすらダークでシニカルだ。なにしろ、スペイシー演じる主人公がこれまでに培った経験と知恵とコネを総動員して、ダーティーな陰謀をしかけていくのだから。最初の2話を手がけたフィンチャー監督のクールでスタイリッシュな映像も、主人公の冷淡な眼差しと完璧にマッチしている(その後のエピソードは、ジェームズ・フォーリー監督やジョエル・シュマッカー監督ら手がけている)。
こんな陰湿な話によくも夢中になれるものだと自分でも思うけれど、どんな動機を持ちあわせていようとも、頭の切れるキャラクターの活躍を見るのは楽しい。また、不当な扱いを受けたことが発端となっているため、主人公の心境に共感できなくても、動機の理解は難しくない。なにより、「ユージュアル・サスペクツ」や「セブン」を例に挙げるまでもなく、スペイシーの演じる悪役はいつでも刺激的だ。しばらくはこのドラマに夢中になりそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi