コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第213回
2013年1月29日更新
第213回:“フォースと共にあらんことを” 新「スター・ウォーズ」監督、J・J・エイブラムスを分析!
J・J・エイブラムスが「スター・ウォーズ エピソードVII」の監督に決まったというニュースには驚いた。ファンの僕にしてみれば、スキルと経験、資質を考えれば最良の選択であるのは疑いようがない。でも、ハリウッドにおいて、素材とタレントの組み合わせは得てして理想通りにはいかないのが現実だ。過去には、無名時代のJ・Jが執筆した「スーパーマン」の傑作台本がボツになって、凡庸な「スーパーマン・リターンズ」が作られたケースもある。いまではJ・Jの執筆原稿がそんな扱いを受けることはないだろうけれど、ヒットメーカーになったがゆえに、スケジュールや契約上の都合から難しいと思っていた。
さらには、ルーカスフィルム側の事情もある。ジョージ・ルーカスは引退宣言をしているものの、ライフワークである「スター・ウォーズ」を簡単に明け渡すとは思えなかった。なにしろ、監督を志願した親友スティーブン・スピルバーグに「NO」を突きつけ、自ら新3部作でメガホンを握ったほどである。かつてアービン・カーシュナー(「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」)やリチャード・マーカンド(「ジェダイの帰還」)を起用したように、一流とは呼べない監督を選ぶことで、影響力の維持を狙うのではないかと勝手に勘ぐっていた。しかし、エイブラムスだけでなく、彼の制作会社バッド・ロボットを丸ごと招聘したということは、ルーカスは本気で「スター・ウォーズ」から身を引くことを考えているようだ。
プレスリリースにおいて、ルーカスはJ・Jに最大級の賛辞を贈っている。「映画監督として、また、ストーリーテラーとして、これまでJ・Jには常に感心させられてきました。新『スター・ウォーズ』の監督として理想的な選択であり、伝統を託すにあたり、彼以上に素晴らしい人物はいません」
スピルバーグを現世最高の映画監督と認めてきたルーカスが、その後継者と目されるJ・Jに「スター・ウォーズ」の未来を託すのは、当然の流れといえそうだ。
さて、ファンのなかには、J・J版「スター・ウォーズ」に不安を抱いている人がいるかもしれない。彼の作品が好みではない人を説得するための文章力はあいにく持ちあわせていないが、少なくとも彼が生粋の「スター・ウォーズ」ファンであることは保証できる。なにしろ、彼が手がけたドラマには「スター・ウォーズ」に関するネタが満載なのだ。
トリビア的になるが、具体例を挙げよう。J・Jが企画したドラマの多くには、自分の分身とも言えるオタクキャラが登場する。そして、彼らはことあるごとに「スター・ウォーズ」について言及している。「エイリアス」のマーシャル(ケビン・ワイズマン)や「LOST」のハーリー(ホルゲ・ガルシア)はもちろん、「フェリシティの青春」のノエル(スコット・フォーリー)までオビ=ワン・ケノービについてコメントしている。
もうひとりの「スター・ウォーズ」ファンであるデイモン・リンデロフと共同で企画した「LOST」は、影響がとりわけ大きい。ソーヤー(ジョシュ・ホロウェイ)はハン・ソロ、ハーリーとチャーリー(ドミニク・モナハン)はR2-D2とC-3POというように、「スター・ウォーズ」のキャラ設定をなぞっているのだ。さらに、ジャック(マシュー・フォックス)とクレア(エミリー・デ・レイビン)の血縁関係は、ルークとレイアと同じである。
また、ルークとアナキンとの複雑な親子関係は、「エイリアス」のシドニー(ジェニファー・ガーナー)とジャック(ビクター・ガーバー)、「LOST」のジャックとクリスチャン(ジョン・テリー)、「FRINGE」のピーター(ジョシュア・ジャクソン)とウォルター(ジョン・ノーブル)とリンクしている。
ストーリー面でも「スター・ウォーズ」からの引用がたくさんあるのだが、長くなりすぎるのでこの辺りで切り上げることにする。
とにかく、「スター・ウォーズ」への愛が溢れているJ・Jだけに、ファンを失望させるような作品はつくらないはず。
J・Jが、フォースと共にあらんことを。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi