コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第208回
2012年12月11日更新
第208回:タブーを笑いに タランティーノ監督の新作「ジャンゴ 繋がれざる者」
「ジャンゴ 繋がれざる者」を観るのは、正直気が進まなかった。ジェイミー・フォックス演じるジャンゴという奴隷を主人公にした西部劇と聞いていたので、復讐劇を想像していたからだ。復讐劇ならば、主人公は物語の前半で酷い体験をしなくてはならない。そうでなければ、誰かに殺意を抱くことにならないからだ。南北戦争以前の奴隷制度時代を舞台にしているし、監督がクエンティン・タランティーノということもあって、ジャンゴが半殺しにされるプロセスがサディスティックに描写されるのではないかと勝手に想像していた。人種差別という題材も決して心が躍るものではなく、どうしてホリデーシーズンに全米公開されるのか理解に苦しんだほどだ。
しかし、「ジャンゴ 繋がれざる者」は復讐劇ではなかった。痛快なアクション・コメディだったのだ。
舞台はアメリカ南北戦争の2年前。奴隷のジャンゴがドイツ生まれの賞金稼ぎシュルツと出会うことから、物語が始まる。南部のお尋ね者を探すシュルツに協力したことがきっかけで、ジャンゴは仲間となる。ふたりのあいだに雇用関係はなく、完全に平等なパートナーとなるのだ。やがてふたりは、レオナルド・ディカプリオ演じる邪悪な領主がいる農園を目指す。目的は、ジャンゴの妻ブルームヒルダの救出。そう、「ジャンゴ 繋がれざる者」の根底にはラブストーリーがあるのだ。
クエンティン・タランティーノ監督とマカロニ・ウエスタンとの相性の良さは予想通りだが、なにより感心したのは、人種差別というヘビーな題材を描きつつ、笑いたっぷりのエンターテインメントに仕上げた点だ。前作「イングロリアス・バスターズ」でホロコーストを笑いにしたように、こんな芸当ができるのはタランティーノしかいないと思う。
次はどんなタブーに挑戦してくれるのか、とても楽しみだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi