コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第144回

2011年7月27日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第144回:ハリウッドの内情に迫ることができるHFPAとは?

「カーズ2」取材でジョン・ラセター監督と
「カーズ2」取材でジョン・ラセター監督と

ハリウッド外国人記者クラブ(Hollywood Foreign Press Association:略してHFPA)に入会してから2カ月が経った。よほどの映画ファンでなければ名前を聞いたことがないだろうし、知っていたとしてもゴールデングローブ賞を選ぶ団体という程度で、普段の活動内容を把握している人はほとんどいないのではないかと思う。ぼく自身、入会するまではその実態をほとんど知らず、いまだに手探りでやっている最中なのだけれど、現時点で分かったことをご報告しようと思う。

HFPAは、その名が示すようにハリウッドで活動する外国人記者(正確には、外国メディアのために働いているジャーナリストであればアメリカ人でも構わない)が集まったエリート団体だ。1940年代にハリウッドで取材活動していた外国人記者たちが、スタジオからより良い取材条件を引き出すために結成したようで、独自に立ち上げたゴールデングローブ賞がアカデミー賞の前哨戦として重要な役割を果たすようになると、映画会社やテレビ局、タレントにとって、もっとも重要なジャーナリスト集団となった。

入会してまず驚いたのは、取材において信じられないほど厚遇されていることだ。一般の映画記者にとって、ハリウッドでの取材環境は最近ますます厳しくなっていて、通常のジャンケット取材ではワン・オン・ワンと呼ばれる独占インタビューが取れることはめったになく、10人程度の記者と同席のラウンドテーブル形式(取材時間15~30分)か、キャスト・スタッフが勢揃いした記者会見(取材時間30~45分)しかない。しかし、HFPAはほとんどのジャンケットにおいて独自の取材枠を確保していているので、ひとりのタレントにつき40~60分間たっぷり取材できる。記者会見方式ではあるものの、会場を埋め尽くす記者はみんなベテランだから、的外れな質問はめったになく、充実したインタビューになる。

もうひとつの違いは、タレントとの距離感だ。通常の取材ではタレントのガードがものすごく堅い。他人の悪口やプライベートのことなど、自分を不利な立場に追い込むような情報をうっかり提供してしまわないように気を遣っているからで、彼らがリスクを冒してまでマスコミの前に姿を現すのは、映画宣伝の義務があるからだ(出演契約書に宣伝協力の細かな条件が盛り込まれている)。だから、たとえ同じテーブルで楽しくお喋りしていても、タレントと記者とのあいだには見えない壁が存在するのだ。

でも、HFPAの前にやってくると、彼らはとたんにフレンドリーになる。写真撮影に喜んで協力してくれるし、取材者・被取材者の関係を超えた交流にも積極的だ。たとえば、先日、ビバリーヒルズ・ホテルでジョン・ラセター監督のHFPA会見が行われたのだが、その直後、ホテル内のポロ・ラウンジで立食パーティーが行われた。ラセター監督をはじめとする「カーズ2」の主要スタッフとHFPA会員との交流会のようなもので、ぼくはラセター監督に会見で聞きそびれた質問をいくつかぶつけさせてもらったあと(その内容は、CUT最新号の超ロング・インタビューに反映されています)、大好きな作曲家のマイケル・ジアッキノにべったり張りついた。「LOST」や「SUPER 8」の音楽作りに関する話はとても刺激的で、彼がJ・J・エイブラムスブラッド・バードを引き合わせたことがきっかけで、「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」でのコラボが実現したことなど、裏話まで聞かせてもらうことができた。こんなことは一般の映画取材ではあり得ないことで、HFPAのすごさを実感させられた一幕だった。

ちなみに、HFPAは年間200回以上の記者会見を行っている。いずれ、テレビ取材についてもご紹介したいと思う。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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