コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第124回
2010年4月20日更新
第124回:「トイ・ストーリー3」のアート・ディレクターは、幼なじみだった!
昨年秋、eiga.comの編集者さんから、「ピクサーから連絡があったんですが」とのメールを頂いた。ピクサーで働く日本人スタッフが自分と連絡を取りたがっているのだという。ぼくは大のピクサー映画好きで、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたか」という本まで出してしまったほどなのだけれど、ぼくの知る限りにおいて、ピクサーに在籍する日本人は1人しかいない。テクニカル部門でキャラクター制作を手がける小西園子さんがその人で(血縁関係はない)、「カールじいさんの空飛ぶ家」では犬のガンマを担当されている。
しかし、問い合わせをしてきてくれたのは、数年前からピクサーで働いているという堤大介さんだった。
その後、直接メールでやりとりして、2つの事実に衝撃を受けた。まず、相手がぼくの幼馴染みだったということ。子供のころ一緒に遊んでいた「大介」が、まさか天才クリエイター集団の一員になっていようとは思いもよらなかった。
さらに驚いたのは、その彼が「トイ・ストーリー3」でアート・ディレクターを務めているという事実だった。CGアニメ制作には数百名のスタッフが関わるが、アート・ディレクターは美術部門のトップ、プロダクション・デザイナーの直属であり、非常に重要なポジションだ。しかも、堤さんは、映画のルックの要ともいえる「カラー・スクリプト」を担当しているという。カラー・スクリプトとは、各シーンの色彩イメージをワンカットで描いたイラスト集のことだ。文字通り、色彩で表現された映画台本であり、これを下敷きにして各シーンのセットや照明が作られていくことになる。そんな大役を堤さんは任されているのである。
堤さんによると、高校卒業後、イラストレーターを目指して渡米。のちにCGアニメ作品のコンセプトアートに興味を持って、「アイス・エイジ」シリーズを手がけるNYのアニメ工房ブルースカイに就職した。その後、「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチ監督から直々にラブコールがあり、ピクサーに転職することになったのだという。
今年4月、ついにその「トイ・ストーリー3」を鑑賞する機会がやってきた。まだ一部のショットが未完成で、サウンドも仮ミックスの状態だったが、先行取材をする記者のために上映してくれたのだ。
ぼくは映像世界にたちまち引きこまれた。前2作はストーリーこそ秀逸だが、CGアニメの黎明期に製作された作品だから、ビジュアルが貧弱だ。しかし、「トイ・ストーリー2」から11年の時を経て公開となる第3弾は、技術革新のおかげで細部の描写が圧倒的に豊かになったばかりか、色彩がストーリーテリングの強力な武器となっている。あいにくまだストーリーを明かすわけにはいかないので詳しく説明できないのだが、日常と非日常とのコントラストが秀逸で、これを堤さんが手がけたかと思うと、とても誇らしい気分になった。
今回の取材では堤大介さんにもじっくり話を聞くことができた。このインタビューはのちほど発表するのでお楽しみに。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi