コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第1回
1999年12月29日更新
僕は極度のあがり症である。相手の目を見て話すことなんて出来ないし、初対面の人と話すと、無理にお喋りをしてしまうか、無口になってしまうか、そのどちらかで、どっちにしろ良い印象を与えない。そんな僕がインタビュアーなんて仕事に向いているわけないのだが、なんとなく・・本当になんとなくだ・・定着してしまった。今はアカデミー賞ノミネート投票の時期で映画公開が相次いでいて、ここ数週間でウィノナ・ライダー (「Girl, Interrupted」)、キャメロン・ディアス (「Any Given Sunday」)、デンゼル・ワシントン (「The Hurricane」)、エドワード・ノートン (「アメリカン・ヒストリーX」) などといった人たちとインタビューする機会を得た。さすがにこの仕事をはじめて4年近くになるので、多少は平常心を持ってこなすことができるようになったけれど。
でも、慣れたといってもそれはインタビューの会場 (たいていはLAのフォーシーズンズ・ホテルで行われる) だけでの話だ。僕は家では集中できないので、いつも喫茶店で原稿を書くことにしているのだけれど・・ちなみにこれもスターバックス発です・・近頃セレブリティを頻繁に目撃するのである。それまでもティム・アレンとかジュリー・デルピーとかを見かけたことはあったけど、半年に一度ぐらいの頻度だった。でもここ一週間、まるでスタジオ内のカフェテリアにいるみたいに、多く見かけるのだ。例えば、三日前Sunset 5というショッピングセンターの喫茶店にベン・アフレックが現れた。そしてその日の午後、Mani's Bakeryというパン屋さんでは、「プライベート・ライアン」に出ていたジョバンニ・リビージがガールフレンドと一緒にいた。昨日ウエストウッドのスターバックスではミニー・ドライバー。そしてその後、ジョバンニ・リビージが一人で現れた (仕事がないのか?)。業界人が集まりそうなヒップなクラブやクールなレストランならまだしも、こんな喫茶店でセレブリティに遭遇するとは思わなかった。僕は有名人と同じ空間にいるだけでなんだか緊張してしまう。そして、まわりの人間が余計なことをしないかと、ひやひやして仕事も手につかなくなる。たいていは、他のお客さんもプライバシーを尊重して、気づかない振りをしている。「サイン下さい」とか「写真取っていいですか」なんて言う人は滅多にいない。まあ、僕が勝手に心配しているだけなんだけど。
こんなことを書いていたら、特徴的なあごをした、見覚えのある顔の男が入ってきた。「Tall Non-fat Latte」・・その声に間違いない。クエンティン・タランティーノだ。ボロボロのパーカー、くしゃくしゃの髪。「ジャッキー・ブラウン」の時よりかなり太っている。最近ティム・ロスにインタビューしたとき、タランティーノは新作の脚本を書いているという話をしてくれたけど、脚本に忙しいのかなあ。というわけで、スターに会いたい人はLAの喫茶店に張り込めばその可能性があるかも。運悪くて、僕に会ったりしてね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi