コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第9回
2019年3月13日更新
SXSW開幕!ジョーダン・ピールの新作ホラー「Us」に2時間並ぶ
今年も、サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)に参加するために、テキサス州オースティンにやって来ました。SXSWは、もともと1987年に音楽フェスとして始まったイベントですが、その後映画祭がアタッチされ、さらにインタラクティブ・フェスも加わり、今では「テックと映画と音楽の祭典」として広く知られるようになりました。ここ数年、日本からの参加者も急増中で「サウスバイ」という呼び名が定着しつつあります。
SXSWは例年、インタラクティブ・フェスティバルが皮切りとなります。TwitterやAirbnb、Pinterestなど、後に大ブレイクしたテック企業がここから生まれたこともあって、「シリコンバレーのトレンドをテキサスでキャッチアップする」というのが、SXSWのインタラクティブ・バッジで参加する人たちの主流です。彼らは、コンベンションセンターや周辺のホテルで開かれる、さまざまなセッションやキーノートをはしごして過ごします。
ところが会期の後半、インタラクティブが終わって音楽フェスが始まると、オースティンの町の雰囲気が180度変わります。あちこちからバンド演奏が大音声で流れ、町全体が巨大ライブハウスになったかのような雰囲気になるのです。そんな具合にSXSWはかなりカオスなイベントで、「参加してはみたものの、何をすればいいのか分からない」という人々が多数出現することでも有名です。
そして、期間的にインタラクティブと音楽の間を取り持つ映画祭はというと、北米作品中心のインディペンデント映画祭といった趣で、ヨーロッパのトンガった映画はあまり見られません。要は、有名な監督の映画が少ない。なので、インタラクティブや音楽に比べるとやや影が薄い感じは否めないのですが、それでも最近ではサンダンス映画祭と肩を並べる、アメリカで一二を争う映画祭として評価を上げています。
私の場合は、映画の上映やイベント、インタラクティブのセッションやキーノートすべてに参加できるパスを入手して、およそ1週間をオースティンで過ごすというのが、ここ数年の恒例になっています。
さて、2019年のSXSWですが、映画祭は3月8日の夜の、ジョーダン・ピール監督の新作「Us(原題)」がオープニングです。「ゲット・アウト」で昨年のオスカー脚本賞を受賞したピール監督なので、注目度もMAX。ホラー映画で開幕するところが、この映画祭ならではですね。
18時30分からの上映に備え、我々も2時間前から並ぶことにします。本当は、上映開始30分前までに受付に行けば入場できる予約チケットをゲットするはずだったのですが、現地入りした時にはすでにSOLD OUTになっていたので、並ぶしかなかった。過去の経験から推測して、2時間前なら大丈夫だろうと。
しかし。この見積もりは甘かった……。
開映10分前になっても行列は1センチも動かず、5分を切ってからようやく人々が動き始めます。そうこうするうちに開映時間が過ぎて、我々が上映劇場に10メートルまで迫ったところで「満席です。ここから後ろの人は入場できません!」のかけ声が。
通常、SXSW映画祭の出品作品は、期間中に3回の上映があるのですが、この「Us」は1回しかなかったことも、混雑に拍車をかけました。次回からは、上映館のキャパにもよりますが、2時間半前に並べってことですね。
それにしても、2時間半を、単に行列の中で過ごすって不毛すぎる。入れないなら入れないで、列についた時点で結論が欲しいですよね。そうすれば、その2時間半で他の映画やセッションに参加できるわけで。運営サイドに改善を要求したいポイントのひとつです。
さあ、気を取り直しましょう。プランBの発動です。この日「Us」に入場できなかったおかげで、別のワールドプレミアを見ることができました。しかも、個人的にはこっちの映画の方が、完全にツボだったという……。
次回は、忘れられない体験となった「Mr. Jimmy」という映画のワールドプレミアについて報告します。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi