コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第59回
2023年9月12日更新
「グランツーリスモ」に大興奮。車がリアル、撮影がリアル、ストーリーもリアル
「グランツーリスモ」が実写映画になったと聞いた時、「ああ懐かしい」という感慨以外に特別な感情は覚えませんでした。その昔、プレイステーションで少しだけプレイした記憶がありますが、とてもマニアックなゲームだなという印象でした。しかし「監督がニール・ブロムカンプだ」と聞いて、俄然前のめりに。ブロムカンプ監督は、SF以外も撮るのか?「第9地区」と「グランツーリスモ」に何の接点があるんだと気になって、試写の鑑賞予約をします。
そして本編を鑑賞したら、ブッ飛びの面白さ、いや、想像のはるか斜め上の大興奮案件でした。今年(2023年)見た映画でもっとも興奮した一本です。現時点で今年の個人的ベストと言ってもいい。さて、どこに興奮したのか?
ストーリーは胸熱系です。自動車メーカーの日産がレーシングドライバーを育成するために、ゲーマーをスカウトする。グランツーリスモの大会で優勝したゲーマーが10名集められ、本物のレーシングドライバーとしてトレーニングされ、実際にレースに出場して活躍する。以上が大まかなストーリーです。
実話に基づくストーリーとは聞いていましたが、「さすがにここはフィクションだろう」「いくら何でもこれは盛りすぎだろう」というようなシークエンスも、実際に起きていたことだと本編の後半で判明します。世の中には、自分の知らなかったミラクルがまだまだたくさんあるんだなあと痛感します。
そして、そんなミラクルなストーリーラインを感動と興奮の極みまで高めているのが、ブロムカンプ監督によるエクストリームな撮影の数々です。とにかく、サーキットのレースシーンがめちゃめちゃ凄い。もの凄い迫力と臨場感で観客を没入させるのです。
描かれるサーキットも、ニュルブルクリンク、ハンガロリンク、レッドブル・リンクなどなどレースファンなら誰もが知ってる有名なサーキットで実際にロケが行われています。
ブロムカンプ監督自身が、撮影方法について語っているYouTube動画がありますので、そちらを貼っておきます。
監督は語っています。「俳優をレースカーに乗せて実際の速度で走らせた」と。まるで、「トップガン マーヴェリック」じゃないですか。「グランツーリスモ」は「陸上のトップガン」ですよ。
空撮には、FPVドローンを使っています。競技などで使われる、操縦者がゴーグルをつけてFPV(First Person View)一人称視点で撮影できるドローンです。加えて、「カメラを先端につけた撮影車をレースカーと同じスピードで走らせて撮影した」と語っています。地を這うような高速映像に、タイヤ片が飛び散るカットなどはこのカメラが活躍した成果です。
コックピットの中にもカメラを設置しています。ドライバーの表情や感情をクローズアップで捉えていて、これも「陸上のトップガン」を裏付けるエピソードですね。
「グランツーリスモ」は、ストーリーラインもさることながら、そのカメラワークが最大の見どころであり、興奮ポイントです。迫力のレースシーンは「カメラがどこにあるのか」注意して見てください。それを考えただけでクラクラします。「ひょっとしてCGでは?」と考えたシークエンスも数々ありましたが、先のYouTube動画を見て「本当に撮っているんだ」と納得できました。FPVドローンの空撮と、地を這うカメラのコンビネーションは、今後の自動車案件のスタンダードになっていく可能性が十分ありますね。
ブロムカンプ監督も「車がリアル、撮影スタイルがリアル、ストーリーがリアル」な映画なんだと語っています。困難なチャレンジを行う姿勢と、その成果に感服しました。自らもNISSAN GT-R(一番安いモデルで1300万円ほど)を所有していたといいますから、相当のカーマニアです。まさにこの映画を撮るに相応しい人物だったと心から思います。
次回はIMAXでこの迫力を体験することに決めました。映画「グランツーリスモ」は9月15日公開です。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi