コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第48回
2022年8月29日更新
ビートルズとデビッド・リンチが同居する「奇跡」、いや「必然」の映画
今回は極めてパーソナルな映画体験について。何年かに一度、「これは、オレの映画だ!」という1本に出合うことがあります。その瞬間がつい最近訪れました。「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド」がそれです。
私は、小学生の頃からビートルズを愛聴していて、彼らの曲はほぼ歌詞まで暗記しているレベルのビートルマニアです。20代でイギリスに初めて旅行した時には、アビーロード・スタジオ前の横断歩道を渡る写真も撮ったほど(お上りさん丸出しで)。
そのビートルズが、1968年にインドのリシケシュで「修業」を行っていたのは有名な話です。そしてこの映画は、ビートルズがインドにいた頃、偶然にも同じアシュラムに滞在していたカナダ人が、当時撮った写真を紹介しながら、ビートルズと過ごした思い出を語るといった趣向です。
話は変わります。私は90年代、デビッド・リンチの「ツイン・ピークス」にどっぷりハマり、ロケ地を巡るツアーを企画して300人の日本人をシアトル近郊まで連れて行った経験があります。リンチの映画ももちろんすべて見ています。
10年ほど前に「デビッド・リンチが最近映画撮ってないなあ。何してんだろ?」って気になっていた時期があって、当時調べてみたら、YouTubeにリンチがポール・マッカートニーをインタビューしている映像がありました。「2人に何の繋がりが?」と不思議に思いながら見てみると、ポール・マッカートニーがマハリシ・マヘーシュ・ヨギとの出会い、そして、超越瞑想(TM瞑想)との出合いについて語っています。何とデビッド・リンチは、超越瞑想を普及させるデビッド・リンチ・ファンデーション(DLF)を設立していて、その普及活動の一環でポール・マッカートニーに会っていたのです。近頃、全然映画撮ってないと思ったら、瞑想をやってた。
監督稼業、どうしちゃったの?と心配になる一方、インタビュアー・リンチの瞑想布教YouTube動画には、クリント・イーストウッドやマーティン・スコセッシが登場するものもあり、それらを見てしまった私も、ハリウッドの巨匠たちにならい、瞑想を始めるに到ったのです。以来、毎朝20分の瞑想はすっかり朝のルーティンになっています。
さて、かつてビートルズがリシケシュで行っていた「修業」は超越瞑想のレッスンであり、その開祖がマハリシ・マヘーシュ・ヨギであり、21世紀の今、デビッド・リンチが財団を作って、その瞑想メソッドを普及させようとしているわけです。「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド」にも、リンチが何度も登場し、瞑想の効用を熱く語っています。
ビートルズ、瞑想、デビッド・リンチ。ビートルズ、瞑想、デビッド・リンチ……。これが「オレの映画」じゃないとしたら、誰の映画なんだよってぐらい、もう完全に打ちのめされました。
映画に話を戻しましょう。この1968年のリシケシュ修業は、いわゆる「ホワイトアルバム」の手前段階。そこに収録されている「バンガロー・ビル」とか、「ディア・プルーデンス」とか、「オブラディ・オブラダ」とかの由来や楽曲の成立過程などがじゃんじゃん登場して、ビートルズファンなら狂喜乱舞の内容です。本当に興奮しました。
残念ながら、ビートルズの楽曲そのものは映画では1曲も使用されていません。版権料の問題でしょう。しかし、映画を見終わったら速攻で「ホワイトアルバム」をスマホやステレオで再生するってことで十分にシンクロ可能です。是非お試しあれ。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi