コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第7回
2008年7月28日更新
第7回:「ポニョ」予定通りの大ヒット。しかし、興収100億円程度にとどまるか?
7月3週目の週末は3連休となった。国内映画市場では、夏休みの大本命「崖の上のポニョ」が貫禄の首位デビューを果たした。公開3日間の成績は、動員が125万1107人、興収は15億7581万7355円。21日の祝日を除く、土日の2日間では興収10億2596万1855円である。
この数字の読み方はいろいろある。
まず、過去の宮崎アニメと比べてみよう。01年7月の「千と千尋の神隠し」が今回同様3連休に公開されており、盛んに引き合いに出されている。3日間の興収で比較すると、「ポニョ」は「千と千尋」の96.6%なので、304億円稼いだ「千と千尋」の数字を引き合いに、「ポニョ」は300億円も狙えるという観測が出ても不思議ではない。
とは言え、「千と千尋」は日本における映画の興行収入ランキングの歴代1位に輝く作品。また、アカデミー賞最優秀長編アニメ賞をも受賞しており、宮崎アニメの中でも別格なのである。いくら同じ作家とはいえ、安易に比較対象とするには無理がある。
では、もっと最近の宮崎アニメ、04年11月の「ハウルの動く城」と比べたらどうだろう? 「ハウル」は公開2日間で14億8384万3060円を記録しており、勢いでは「千と千尋」を遙かに上回っていた。だが、最終的には興収196億円と、「千と千尋」を100億円以上下回っている。そして「ポニョ」の出足は「ハウル」の約70%の水準にすぎない。196億円の70%は137億円である。
さらに、06年の宮崎吾朗監督「ゲド戦記」と比べてみよう。監督は違えど、歴とした「スタジオジブリの宮崎アニメ」に相応しく、公開2日間で興収9億0533万5600円という堂々たる成績。そして「ポニョ」の出足はこれの113%である。「ゲド戦記」の最終興収は76.5億円だから、これを1.13倍すると86.4億円。
ついでにもう1つ。6月28日に公開された「花より男子」の公開2日間の成績は、興収10億0579万8910円。何と、「ポニョ」の2日間とほとんど変わらない。「花男」の最終興収は70億円前後と予想されている。
こうして過去の宮崎アニメの数字を並べて比較していくと、今作「ポニョ」の到達地点は、興収100~120億円ぐらいではないかというのが我々の予想だ。作品の内容についても、「千と千尋」「ハウル」のようにオールターゲットというわけではない。宮崎監督も「子供たちのために作った」と語っていることもあり、20代や30代の大人たちの稼働がそれほど多くないので、夏休みが終わる頃にガクっと勢いが落ちる可能性がある。
しかし、我々の予想を遙かに超えて、200億円近くまで到達する可能性も皆無とは言えない。例の「ポーニョ、ポーニョ、ポニョ」という主題歌の圧倒的な力があるからだ。昨年の12月に、すでに発売されていたというこの主題歌は、今年の2月には8枚しか売れていなかったのが、公開直前には1日に1万枚以上が売れ、21日にはオリコンのデイリーチャートでも1位になっている。
あっという間に全国に浸透し、今や誰もが口ずさむその旋律が、「崖の上のポニョ」の主題歌であることを知らない者はいないだろう。動員への強力な追い風になっていくことは間違いない。(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi