コラム:細野真宏の試写室日記 - 第95回

2020年10月16日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第95回 劇場版「鬼滅の刃」は歴代最高の初速を出せるのか? 興行収入100億円突破は?

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「鬼滅の刃」の映画版がいよいよ公開されます。

まず、世界の映画業界は新型コロナウイルスの影響でダメージを受けていますが、日本は7月公開の「今日から俺は!!劇場版」が興行収入50億円を超え、続く「コンフィデンスマンJP プリンセス編」も37億円を超えたりと復活の兆しが見られています。

ただ、一方でアメリカでは世界最多の死者数が出ているなど、依然として新型コロナウイルスの影響が大きく、ハリウッド大作映画の供給が止まってしまっている現実もあります。

そこで、延期になってしまっているハリウッド大作映画に代われる存在感のある作品が映画業界から求められているのですが、まさにこの「鬼滅の刃」という作品は、それに値するポテンシャルを秘めた作品なのです!

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新型コロナウイルスが流行りだし緊急事態宣言が出されたとき、「マスク」と「在宅で楽しめるコンテンツ」が求められていましたが、その需要を大きく取り込んでいたのも「鬼滅の刃」でした。

出版不況が叫ばれる中、マンガ誌も例外ではなくなってきていますが、「鬼滅の刃」を連載していた「少年ジャンプ」の集英社の編集者は、「ウチでは(作っても作ってもすぐに売り切れる)マスクを作っている感じなんですよ」と話していました。

それは新型コロナウイルスが流行した当初、買い占め等でマスクがすぐにドラックストアから蒸発するように売れまくっていましたが、「鬼滅の刃」の単行本も、刷っても刷っても蒸発するように売れていたからでした。

実は、この現象に大きく寄与していたのが、「アニメ版」の制作でした。

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2019年4月から9月まで、土曜23時30分~、TOKYO MX、群馬テレビ、とちぎテレビ、BS11といったキー局ではない全20局で放送されましたが、制作を手掛けたアニメーションスタジオがufotable【通称、ユーフォー(ufo)】だったことがカギとなっています。

ユーフォー(ufo)と言えば、第86回で紹介した「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」の制作会社であり、「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」シリーズなど、ユーフォー(ufo)が手掛ける作品のクオリティーの高さは、数あるアニメーションスタジオの中で異彩を放っています。

同様に、「鬼滅の刃」のアニメ版も非常にクオリティーが高く、このままでも「映画」として成り立つレベルでもあったのです。

実際に、アニメ版の2019年4月からの放送に先駆けて、「アニメ版の第1話~第5話」で構成される「鬼滅の刃 兄妹の絆」を2019年3月29日に全国11劇場で公開もしていました。

「鬼滅の刃 兄妹の絆」
「鬼滅の刃 兄妹の絆」

さて、「鬼滅の刃」放送前の2019年3月の段階で、原作本の発行部数は、シリーズ累計で350万部を突破したくらいでした。

しかも、アニメ版の放送は、キー局ではないですし、ましてやプライムタイムでもなかったのですが、着実にファン層が拡大し、放送終了時の9月には1200万部にまで伸ばしていたのです。

そして、緊急事態宣言中の2020年5月13日には6000万部にまで伸ばしています。

アニメ版のクオリティーの高さから配信等で需要が増え、さらに単行本の人気が上がり、といった相乗効果で、この10月2日に発売となった最新コミックス22巻で、遂に累計「1億部突破」まで行きました!

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映画においても、まだ正確なデータは発表される前ですが、「鬼滅の刃」のムビチケ前売券(オンライン)の販売枚数は、歴代最高の販売枚数になっている可能性が極めて高いのです。

昨年の日本の映画業界は絶好調で、年間で歴代1位の興行収入2611憶8000万円を記録しました。

そんな年にふさわしく、これまでのムビチケ前売券(オンライン)の販売枚数において、月間で「歴代最高販売枚数」を記録した月は「2019年4月」でした。

ところが、新型コロナ騒動にもかかわらず、先月の「2020年9月」のムビチケ前売券(オンライン)の販売枚数は10万8409枚と「2019年4月」を超え、あっさり「歴代最高販売枚数」を更新しているのです!

ちなみに、作品別では、(「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の発表前の現時点で)過去最高の販売枚数になっているのは「アナと雪の女王2」で6万7910枚となっています。

「鬼滅の刃 兄妹の絆」
「鬼滅の刃 兄妹の絆」

今回の映画版では、キー局のフジテレビとプロモーションでタッグを組み、フジテレビの「土曜プレミアム」で「アニメ版の第1話~第5話」で構成された「鬼滅の刃 兄妹の絆」が10月10日に放送されました。

すでにアニメ版の第1話~第5話は、テレビや配信等で見ていた人も多かったはずですが、平均視聴率(世帯)は16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、想定を超えるようなブームが起こりそうな気配を感じます。

さらに、10月17日(土)には「アニメ版の第15話~第21話」で構成される「那田蜘蛛山(なたぐもやま)編」が放送されます。

アニメ版は全26話で、映画版は、まさにその続きからスタートするわけですが、この2つの「土曜プレミアム」を見ておけば十分に作品についていけます。

ちなみに、アニメ版の第19話の「ヒノカミ」という回は、作画も演出も音楽も圧倒的にクオリティーが高く、17日放送の「那田蜘蛛山編」に含まれているので、さらに「鬼滅の刃」の人気に火がつくと思われます。

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このような背景のもと、映画館の期待も異常なまでに高く、新型コロナ騒動で常套手段となった「1作品の上映に多くのスクリーン体制」の手法が、ここにきて炸裂しています!

この週末は、「鬼滅の刃」に大部分のスクリーンを割り当てて上映する、といった映画館が続出する状態で、これまでの新型コロナ騒動の逆境を跳ね返すべく、映画館側も受け入れ態勢を万全にして臨んでいます。

これまでの歴代最高の初速のオープニング記録(金、土、日)は、「アナと雪の女王2」の19.4億円ですが、恐らくこれを超えるくらいのポテンシャルがあるように思われます。

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そして、興行収入ですが、まずは「興行収入100億円」という大台は突破すると思います。

ただ、最終的にどこまでいけるのかは、現時点では未知数です。

配給元はアニプレックス単独ではなく、最大手の東宝とのタッグなので、展開のバックアップ体制は万全になっています。

そして、何と言ってもアニプレックス作品の強さの一つに「入場者プレゼント」があって、今回も先着450万人に「鬼滅の刃 煉獄零巻」という84Pの特製冊子がもらえます。
動員450万人を突破した後に、どんな入場者プレゼントが用意されるのか、あるいはされないのか等によっても動向は大きく変化すると思っています。

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さて、肝心の今回の映画の出来ですが、通常のアニメ版でもクオリティーが高かったのに、さらに上回るようなレベルでした。

背景のクオリティーも「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」シリーズと同様に高く、冒頭のシーンは、「あれ、これは実写だったっけ?」と見間違えるほどでした。

アクションシーン、人間模様、ギャグシーンなどメリハリもきいていて、この作品は子供から大人まで、かなり間口が広いと思われます。

「ワンピース」などのように今後のアニメ版の展開も続きそうで、しばらくは「鬼滅の刃」旋風で映画業界は底上げができそうな雰囲気です。

17日にフジテレビの「土曜プレミアム」で放送される「那田蜘蛛山編」(第15話~第21話)以外の予備知識を補足すると、第22話の「お館様」で登場する「鬼殺隊」のリーダーが映画の最初に登場します。

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また、第22話では「柱(はしら)」と呼ばれる、「鬼殺隊」の中でも最上位の実力を持つ9名が勢ぞろいします。

そして、敵側の「鬼」については、上位のクラスに「上弦の鬼」と「下弦の鬼」がいて、アニメ版の最終話の第26話「新たなる任務」では、「鬼」のリーダーの「鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)」によって「下弦の鬼」が弱いと処刑され、残った1人が今回の敵となる「下弦の壱」となっています。

何にせよ、まずは今回の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」を見てみることをお勧めします。

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そして、もっと深く楽しみたいと思ったら、アニメ版を見たり(意外と早く見終えることができます)、単行本を読んだり、といろんな楽しみ方ができます。

「鬼滅の刃」という作品自体が非常に面白いので、今回の映画と共に社会現象化するのは間違いなく、どこまで興行収入が伸びていくのか注目したいと思います!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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