コラム:細野真宏の試写室日記 - 第86回

2020年8月13日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第86回 試写室日記 「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」。「鬼滅の刃」のアニメスタジオ作品が「ドラえもん」を超える?

2020年8月13日

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いよいよ今週末の8月15日(土)から「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」の公開が行なわれます。

この作品は、新型コロナウイルス騒動と映画館において切っても切れない程の大きなエピソードがあります。

まず、当初は、2020年3月28日から本作が全国152館で公開予定となっていて、映画館の事前予約が始まると、物凄いスピードで売り切れていき、公開初日はほぼ完売近くまでいっていました。

ところが、公開2日前の3月26日に新型コロナウイルスの第一波によって首都圏全体で外出自粛を要請されてしまい、首都圏の映画館の休館という超異例の状態で急きょ公開中止に。せっかくの予約もキャンセルとなり、1か月後の4月25日に公開が延期となりました。

ただ、新型コロナウイルス騒動は収まらず再延期し、やっと今週末の8月15日(土)での公開が決まったのです。

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この2度の延期は「マイナス要素」もあって、配給元のアニプレックスは公開に合わせて、前2作を地上波などで放送したりとプロモーションをやっていたのですが、2回とも不発にされる形となってしまいました…。

ただ、「プラス要素」もあって、それまで興味の無かった人も、これらのプロモーションで初めて本作の存在を知って興味を持った人も少なからずいると思われる点です。

さて、この「Fate」シリーズは、2004年に発売されたゲーム「Fate/stay night」を原点とする、メディアミックス作品群だからこそ可能な“様々な視点やルートが存在する”といった仕組みが大きな特徴だったりもします。

物語のベースは、願いを叶える“聖杯”を巡る魔術師たちの戦いを描いていて、ゲーム、テレビアニメなど様々な展開がありますが、ここでは映画に絞ります。

「劇場版 Fate/stay night UNLIMITED BLADE WORKS」
「劇場版 Fate/stay night UNLIMITED BLADE WORKS」

まず、映画版は、2010年1月28日に公開された「劇場版 Fate/stay night UNLIMITED BLADE WORKS」が「第1弾」で、この時は配給元がクロックワークスとジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントで、スタジオディーンが制作しています。

まだ、それほど作品が知られていないこともあり、公開館数が13館しかない状態でした。それにもかかわらず興行収入は2.8億円となっていて、快挙と言える結果を残しました。

ただ、制作費の問題もあるのか、映像のクオリティー等は、それほど安定していない印象でした。

そして、映画版「第2弾」は、「Fate/stay night」の登場人物の「桜」に焦点を当てた3部作となっていて、それの最終章が今週末公開となるのです。

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この作品が「第1弾」の時と大きく変わったのは、配給元がアニプレックスになったことと、「鬼滅の刃」で大きな注目を集めているufotable【通称、ユーフォー(ufo)】が制作している点です。

一言で言うと、物凄く作品のクオリティーが上がりました!

実際に、これまでの「第2弾」の結果を見てみると、2017年10月14日公開の1章「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] I. presage flower」は全国128館という規模で公開され、興行収入が一気に15億円を突破する、という快挙を成し遂げたのです。

「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] I. presage flower」
「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] I. presage flower」

続く、2章「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly」も全国132館で公開され、興行収入は16.6億円を記録し、さらに伸ばしているのです!

そして今回の最終章となる3章の「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」は全国156館という公開規模になっています。

新型コロナウイルス騒動が無ければ、今回は興行収入は20億円規模は十分に狙える作品です。

この映画版「第2弾」の「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] 」については、とにかく内容の振れ具合が凄い、というのがあります。

予想のさらに上を行くような展開をしていくのです!

「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly」
「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly」

特に2019年1月12日に公開された前作の2章「lost butterfly」の最後では非常に盛り上がっていたところで終了し、しかもその直後に流れたエンディング曲のAimerの「I beg you」が非常に作品にも合っている鳥肌級の楽曲だったので、これは完結編の3章への期待は高まるばかりでしょう。

個人的には、よくみんな、あのエンディングから1年半も待っていられたな、と思うくらいでした。

そして、最終章の内容ですが、「なるほどこう来るか」といった感じで、最後まで満足のいくものに仕上がっていると思います。

この「第2弾」は「エヴァンゲリオン」シリーズのような深さがあり、何度見ても発見のようなものがあります。

そのため、私自身もあと数回は見ることになると思います。

「鬼滅の刃 兄妹の絆」
「鬼滅の刃 兄妹の絆」

「鬼滅の刃」がいま大きな話題となっていますが、両作品を制作しているufotable(ユーフォー)の制作能力の高さは、これからのアニメーション映画で大きく期待できます。

例えば、「第2弾」の“3章すべて”を担当している須藤友徳監督ですが、メインのキャラクターデザインに加えて、絵コンテ、さらには総作画監督までもこなしています。

ちなみに、テレビ版の「鬼滅の刃」ではオープニング原画などもこなしています。

背景のクオリティーも高いのですが、これは海老沢一男というアニメーション黎明期から活躍している背景の世界では昔から有名な方が、ユーフォーの美術スタッフの新人教育の際に、入社後の一定期間は手描きの背景のみを手掛けることを義務化するなど、スタジオの仕組みも関わっています。

「デジタルペイント×手描き」により、より味わいのあるクオリティーの高い背景が生み出されているようです。

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そして、「アニプレックス× ユーフォー」というチームのポテンシャルもかなり高いと思います。

配給元のアニプレックスの場合は、基本は公開館を絞った上で「週替わりプレゼント」をこまめに用意しているのです。

これは、ファンにとっては非常に嬉しいもので、しかも作品のクオリティーも高いので、よりリピーターになる確率が上がっていきます。

しかも、満席であればあるほど争奪戦が起こり、さらに週末動員ランキングでトップになったりすると、一般の人も興味を持ってきて、さらなる好循環を生み出すわけです!

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ただ、本作での(新型コロナ要因を除く)懸念材料は、「一見さんには、やや厳しい内容」ということでしょうか。

とは言え、私もゲームは勿論の事、深夜アニメは見ていないですし、正直、劇場版 「第2弾」の1章と2章だけで「本当に理解できているのか?」と言われてしまうと、「うっすらとしか理解できていない面もある」というのが本当のところだと思います。

でも、そんな私でさえ、本作の3章は十分に楽しめましたので、可能であれば劇場版の「第2弾」の1章と2章だけは見た上で、本作を見てみてほしいと思っています。

勿論、配給元のアニプレックスもその点は承知をしていて、例えば「dアニメストア」では、1章と2章を8月10日~8月22日の期間限定で「見放題配信」をしています!

新型コロナの影響がなければ、興行収入はシリーズ過去最高を記録するのは当然でもあるので、どんなハイスコアを叩き出してくれるのか期待したいところです。

「映画ドラえもん のび太の新恐竜」
「映画ドラえもん のび太の新恐竜」

心配なのは、新型コロナの影響で、映画館の座席が市松模様となっていて、夏休み期間中で「映画ドラえもん のび太の新恐竜」「今日から俺は!!劇場版」「コンフィデンスマンJP プリンセス編」の3作品が未だに好調で、さらには300館規模の新作が今週末に2本も公開されるので、「座席数がどれだけ確保できるのか」という映画館の供給面の大きな問題も出てきています。

そのため、かなり景気の良い週末になりそうですが、果たして「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」がどれだけ爆発的な動きを見せ、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」を週末のランキングで超えられるのか?

そして、このアウェイな状況にありながら、右肩上がりの作品の完成度に合わせて興行収入もシリーズ過去最高を記録できるのか、大いに注目したいと思います!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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