コラム:細野真宏の試写室日記 - 第74回
2020年5月20日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第74回 試写室日記 「アナ雪2」と「アナ雪」。勝ったのはどっち?/【番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第8回
日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。
その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。
昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?
ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!
そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。
そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。
その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。
【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】
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●第2位
「ベスト2位」にランクインした作品は、こちらもディズニー配給の「アナと雪の女王2」でした。
やはり「アナ雪」ブランドは圧倒的で、もはやディズニーアニメーション映画の代表作になっています。
「アナと雪の女王」シリーズは、ディズニー史上初のダブルヒロイン作品です。
「アナと雪の女王」では、アナとエルサの姉妹のすれ違いと絆を描き、数々の名曲も生み出し、アカデミー賞で「長編アニメ映画賞」と「歌曲賞 (レット・イット・ゴー)」の2部門を受賞しました。
そして、本作「アナと雪の女王2」では、前作では“前提”となっていた“妹のアナは魔法を使えないが、姉のエルサは魔法を使える”という、そもそもの謎を解き明かしていき、この2作品は、いわば「前編と後編」といえるような関係でした。
ただ、日本では「アナと雪の女王」は興行収入で255.0億円も稼いでいたのに、「アナと雪の女王2」では133.5億円と大幅に下がってしまいました。
これは、大きな要因として考えられるのは、以下の2つがあるような気がします。
まず、「アナと雪の女王2」は、「アナと雪の女王」と比べると、少し歌が弱かったのか、日本では「アナと雪の女王」の時ほど大きなムーブメントが起こりませんでした。
日本での「アナと雪の女王」ブームは、歌と一緒に盛り上がっていく感じだったので、この流れが弱かったのが痛かったのかもしれません。
また、「アナと雪の女王2」は、「アナと雪の女王」と比べると、少しだけ内容が入り組んでいたので、子どもには少し難しい面もあったのかもしれません。
前作は多くのリピーターを生み出していましたが、子どもが強い関心を示さないとファミリー層のリピーターまでは呼びにくくなります。
とは言え、本作「アナと雪の女王2」では、雪だるまのオラフが良い感じのムードメーカーになっていましたし、最後に子ども用に「ストーリーのまとめ」もしてくれているので、実は作品自体のクオリティーは前作同様に高かったと思います。
個人的な感想では、意外とテンポよく進むため、少しボーとしていると、「あれ?」となってしまう箇所があって、2回目、3回目と見て、より入り込める面があったので、本作「アナと雪の女王2」の評価は、時間と共に上がっていくのかもしれません。
日本で興行収入255億円を記録し「興行収入歴代3位」となっている「アナと雪の女王」と比べると、「アナと雪の女王2」は負けている感がありますが、世界的に見ると、どっちが勝っているのでしょうか?
「アナ雪2」と「アナ雪」は、一体どっちが勝ったのか?
まず、「アナと雪の女王」と「アナと雪の女王2」の制作費は、共に1億5000万ドル(150億円規模)で同額なのです。
そのため、基本的には世界興行収入での差が最終的な利益に跳ね返る構造になっています。
日本での興行収入は「アナと雪の女王2」が「アナと雪の女王」より下がったのですが、実は、世界的に見ると、日本とは違った動きをしていたのです。
具体的に日本以外で下がっている国と地域は、ブルガリア、イタリア、ノルウェー、トルコ、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ウルグアイ、ベネズエラ、ニュージーランド、ロシアくらいしかなく、しかも下がり方も“わずかに”といった場合が多く、むしろ大きく上がる国が多かったのです!
このような結果を見ると、ディズニーの日本支社が公開初週の結果を見て「日本の興行収入歴代1位も狙える」といった見通しを示していたのは、決して的外れではなかったのでしょう。
いずれにしても、日本の「アナと雪の女王」の255.0億円と「アナと雪の女王2」の133.5億円という数字だけを見ると全体を見誤ってしまうのです。
世界的に見ると、「アナと雪の女王」の世界興行収入は12億8000万ドル(1280億円規模)でした。
一方、「アナと雪の女王2」の世界興行収入は(日本での興行収入120億円くらいの減少を補って)14億5000万ドル(1450億円規模)と上がっているのです!
この結果、「アナと雪の女王2」は、最終的に5億9900万ドル(599億円規模)もの利益を稼いでいて、「アナと雪の女王」に勝っているのです。
「アナと雪の女王」シリーズもディズニーの代表作となったため、おそらく続きはあると思われます。
ディズニー作品は“タイムレスな作品”が多いので、本作も「語るべき物語」と、「それに合った名作」ができた段階で再び世界を魅了する日がくるのでしょう。
果たして、その時に日本では、どのような推移をたどるのか、非常に興味深いところですね。
きっと、日本では「歌の出来」が大きく興行を左右する要因になるのでは、という気がします。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono