コラム:細野真宏の試写室日記 - 第35回

2019年8月7日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第35回 「劇場版 ONE PIECE STAMPEDE」。メモリアルイヤーに「ワンピース」が遂に「アベンジャーズ」級に!

2019年7月31日@東映デジタルセンター(ゼロ号試写)

今年の夏休み映画は、予想通り「トイ・ストーリー4」と「天気の子」がデッドヒートを繰り広げていますが、今週の金曜日(8月9日)からは「ライオン・キング」と共に本作「劇場版 ONE PIECE STAMPEDE」も公開されるので、さらに熱波が吹き荒れそうです。

劇場版 ONE PIECE STAMPEDE」は、8月1日に大阪のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)での「海賊オールスター万博」のイベント終了後に大阪ステーションシティシネマで「世界最速上映」(観客465名)が行なわれました。

ただ、その舞台裏では、アニメ「ONE PIECE ワンピース」の放送20周年記念作品ということで制作陣も気合が入って、完成は本当にギリギリだったのです。「世界最速上映」前日のお昼くらいに東映アニメーションに隣接する東映デジタルセンターで「テスト試写」を行ない、その段階でも数カットのリテイクが出され、急遽それも対応し、ようやく15時からの「ゼロ号試写」まで漕ぎ着けていたのでした。

そして「世界最速上映」の後は各劇場のインストールに回していくため、「マスコミ試写」さえ一度も行なわれない、という異例な状況だったのです。

(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会

そもそも映画「ONE PIECE」が明らかに変わったのは、2009 年の「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」で原作者の尾田栄一郎が本格的に関わることになってからで、それまで(2005年以降は)興行収入10億円規模をさまよっていたのに、一気に興行収入が48億円にまで跳ね上がりました!

そして、私も大絶賛している「ONE PIECE FILM Z」(2012 年)では68.7億円を記録し、次の「ONE PIECE FILM GOLD」(2016年)では51.8億円と、「興行収入50億円のポテンシャルを持つコンテンツ」にまで飛躍しています。

さて、本作「ONE PIECE STAMPEDE」の出来ですが、私は良いと思います。ただ、今回は、ルフィ率いる“麦わらの一味”らが招待される“海賊の海賊による海賊のための世界一の祭り”「海賊万博」が舞台となっていて、良い意味でスタンピード(熱狂的な状態)な「お祭り映画」なので、これまでの作品とは、また違った作風になっています。

映画のキャチコピーは「立ち上げれ、全勢力。」となっていますが、なかなか的確で上手い表現だと思います。

たとえるなら、世界興行収入の歴代1位になった「アベンジャーズ エンドゲーム」に近いのかもしれません。

決して大げさではなく、「世界最速上映」で観客から「最終回じゃないよね?」という声も出たそうですし。

そのくらいの壮大な映画になっています!

そして、「今までで最高だと思うストロングワールドを超えることは出来ないと思ったが、過去一番熱い映画でした。あと5回は観に行きます。20周年でかなり期待していましたが思った以上でした」という感想もあったそうですが、確かにストロングワールドの時のような感動的な面もありますね。

また原作のコミックスが直近で93巻まで出ていることからも想像できますが、今回はとにかく「アベンジャーズ エンドゲーム」並みに登場人物が多く、「ONE PIECE STAMPEDE」では何と過去最多の200人以上のキャラクターが出てきます。

なので、原作のファンであればあるほどいろんな発見があるなど、見どころが多すぎて、より楽しめると思います!

とは言え、あくまでメインは、いつものルフィ率いる“麦わらの一味”ではあるので、私のような映画しか見ていない「一見さん」レベルでも十分に楽しめます。

(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会

ちなみに「世界最速上映」のアンケート結果では、来場者平均点は驚異の98点を記録したようです!

キャラクターデザイン・総作画監督は「ONE PIECE FILM Z」なども務めた佐藤雅将なので、特に戦闘シーンなどは流石の安定したハイクオリティーでしたし、ゲスト声優陣も、正直、事前に聞かないと分からないレベルの上手さでした。

帰り道、「ユースケ・サンタマリアだけは、どこに出ていたのか全く分からなかった」と話し込んでいる関係者2人がいたくらいですから(笑)。

本作の興行的な成否は、おそらく原作のファン層にどこまで興味を持ってもらえるのかが重要な気がします。

まずは原作のコミックスを集めている層には、尾田栄一郎描きおろしの秘蔵設定画や設定資料などが入っている「入場者プレゼント」第1弾の「ONE PIECE(ワンピース)」コミックス「巻壱萬八拾九(バンパク)」はかなり魅力的だと思われます。

「ONE PIECE」コミックス最新巻の初版が300万部といった規模なので、その層が駆けつけると、第1弾の入場者プレゼントの300万部は一気に蒸発してしまいます。

さらに、第2弾、第3弾と、別の入場者プレゼントもあるようなので、とりあえず私も何だかんだ言って3回は劇場に足を運ぶ予定です。

映画ファン層、テレビアニメファン層、ゲームファン層など、ワンピースのファン層はコミックスだけでは測れないものがあるので、初速がどうなるのかが大きな注目ポイントですね。

初速が爆発すれば、一気にニュース化し、大きな流れができると思います。

本来的なポテンシャルは興行収入50億円を突破できる水準だと思いますが、「ライオン・キング」をはじめ、あまりに強者揃いでどうなるのか、非常に興味深い戦いになりそうです。

公開時期は連休、お盆期間、夏休みと上手く絡むのでかなり期待できそうですが、ちょうど「台風 3連休とお盆に直撃恐れ」といったニュースが出始めているので、出足の勢いが削がれるのだけは避けたいところです。

何とか9日から日本で「ONE PIECE」がスタンピード(爆走)してくれると嬉しいですが、果たして夏休み映画の後半戦で、どこまで勢力図が変わるのか注目です!

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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