コラム:細野真宏の試写室日記 - 第290回
2025年9月11日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第290回 福山雅治主演「ブラック・ショーマン」は「ガリレオ」を越えられるか?

(C)2025「ブラック・ショーマン」製作委員会
今週末9月12日(金)から「ブラック・ショーマン」が公開されます。
原作は、東野圭吾の人気小説「ブラック・ショーマン」のシリーズ1作目「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」。それを「主演・福山雅治」で映画化する――「ガリレオ」シリーズとは異なる新たな“タッグ作”の登場となります。
「ブラック・ショーマン」の主人公は超一流マジシャン・神尾武史。「ガリレオ」の物理学者・湯川学は数学や物理現象の考察から殺人事件を読み解きましたが、神尾武史はマジックを駆使して殺人事件を読み解く――ここに大きな違いがあります。

(C)2025「ブラック・ショーマン」製作委員会
個人的には、数学や物理という学問は得意な分野ではあるので「ガリレオ」という作品への関心は比較的、高いです。
ただ、数学や物理といった縛りがあるため、設定などにやや強引さを感じる面があったり、そもそも数学や物理は苦手という人も少なくない中、「ガリレオ」という作品への訴求力がどれほど強いのかが読みにくい面もあります。
一方「ブラック・ショーマン」のマジシャンは老若男女に「ショー」を見せる存在なので、抵抗を感じる人は少ないですし、必要な捜査情報などをマジックを使って入手・分析していくため、実は意外と「名探偵コナン」に近い作品なのかもしれません。
これまでのフジテレビ映画では「ガリレオ」などの福山雅治主演作品の場合では、西谷弘監督がメガホンをとっていましたが、今回の「ブラック・ショーマン」では「コンフィデンスマンJP」シリーズの田中亮監督になっています。
これは「ガリレオ」シリーズとの差別化を生みやすいですし、「コンフィデンスマンJP」シリーズでもマジック的な「大どんでん返し」が醍醐味の1つにあるので、私は田中亮監督がメガホンをとったのは正解のように思いました。
実際に見てみても、展開、キャスト陣のやり取りもなかなか面白かったので、ポテンシャルは意外と高めのように感じます。

(C)2025「ブラック・ショーマン」製作委員会
さて、「ガリレオ」シリーズの興行収入についても紹介しておきます。1作目「容疑者Xの献身」は、ピークと思えるほど出来が良かったので49.2億円という大ヒットは納得の結果でした。
続く2作目「真夏の方程式」も出来は良かったと思いますが33.1億円と、やや落としました。
そして3作目「沈黙のパレード」は、個人的には前2作ほどの出来ではなかったように感じましたが、興行収入は30億円を死守できました。つまり、「ブラック・ショーマン」が「ガリレオ」シリーズに勝つためには興行収入を30億円台に乗せる必要があります。
ただ、「ガリレオ」シリーズは連ドラで着実に人気を獲得してから、「待望の映画化」という非常に理想的な流れがありました。それに対して、「ブラック・ショーマン」は原作シリーズ1作目をいきなり映画化するという試みなので、やや厳しい面があるようにも感じます。

(C)2025「ブラック・ショーマン」製作委員会

(C)2025「ブラック・ショーマン」製作委員会
このような建て付けを踏まえると、「ブラック・ショーマン」については、まずは興行収入20億円台に到達できるかどうかが現実的な目処になるのかもしれません。
ただ、「口コミ」等では、さらに上を目指せるポテンシャルはあると考えています。「ガリレオ」シリーズが打ち立てている“興行収入30億円”を突破できるかどうかにも注目したいと思います!
筆者紹介

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono