コラム:細野真宏の試写室日記 - 第277回
2025年5月21日更新

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第277回 東村アキコ自伝的漫画の映画化「かくかくしかじか」 今後の興行収入はどうなる?

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
映画「かくかくしかじか」が、先週末の5月16日(金)から“予定通り”公開されました。
まずは作品の出来についてですが、一言でいうと「非常に完成度の高い作品」です。
監督は、バカリズム原作・脚本で永野芽郁主演の「地獄の花園」でメガホンをとった関和亮。バカリズム脚本の映像化の難しさなのか、「地獄の花園」の段階では、私は関和亮監督の力量に対してそこまで大きく光るものを見い出すことはできませんでした。
ただ、製作サイドとしては手応えがあったようで、フジテレビの加藤達也プロデューサーには「またこのチームで集まりたい」という思いがあり、自分の本棚に置いてあった「かくかくしかじか」の原作本を見つけことをきっかけに、本作の製作に動き出したそうです。
そのため、「製作はフジテレビ×ワーナー・ブラザース、主演は永野芽郁、監督は関和亮」という主要な枠組みが、そのまま「かくかくしかじか」に引き継がれています。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
今回の作品は、「東京タラレバ娘」「海月姫」などで知られる漫画家の東村アキコによる自伝的漫画「かくかくしかじか」の実写化ですが、この「漫画の実写化」というのが関和亮監督に合っていたと思います。
「地獄の花園」からは飛躍的に進化し、本作におけるディレクションは終始冴えていて、非常に才能のある監督だと実感できました。
特に冒頭のシーンからタイトルが出るまでのオープニングシークエンスは最初からキャッチーで、力量とセンスを感じます。
また、試写室では珍しく、かなり温かい笑い声に何度も包まれていましたが、物語と地続きになっている自然なギャグパートでも、映画監督としてのセンスの良さを感じることができました。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
この関和亮監督の2作品の比較で言うと、「地獄の花園」の興行収入は7.2億円だったので、「かくかくしかじか」は「興行収入10億円突破は十分狙える」ということになるのでしょう。
また、永野芽郁主演作でヒットとなったワーナー・ブラザース配給作「そして、バトンは渡された」の興行収入は17.2億円を突破しました。
「かくかくしかじか」は感動作でもあるので、作風としては「そして、バトンは渡された」と近く、似たような興収になることも想定されます。
この2作品の比較で言うと、作品の完成度は、「かくかくしかじか」の方が高いと判断できるので、「かくかくしかじか」のポテンシャルとしての興行収入は20億円を狙える、と考えることもできるのです。
その一方で、原作の実売や話題性も少なからず反映されます。これによって上記3作品の初週末3日間の興行収入は以下のようになっています。
●「地獄の花園」1億5259万円
●「そして、バトンは渡された」2億1630万円
●「かくかくしかじか」1億6975万円

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
本作におけるキーパーソンは、何と言っても原作者の東村アキコです。
自身の“過去の出来事”なので、それを最も知っている本人が脚本から方言指導、ロケハンなど多岐にわたって活躍しているのです。
かなり思い入れも強いようで、製作委員会の4社のうち、フジテレビ、ワーナーに加えて、永野芽郁が所属するスターダスト、そして東村プロダクションという東村アキコの会社が名を連ねています。
本作に関する様々な記事を見てみると、インタビューの多くを原作者が受けているという非常に珍しい状況になっているのです。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会
初週末3日間のデータから考えると、「かくかくしかじか」の興行収入は、目標10億円の達成が不可能ではないでしょう。
作品の出来が良いだけに“週刊文春の報道”がこの数字にどれほどの影響を与えるのか――その点が気がかりではありますが、果たしてどのような結果になるのか注目したいと思います。
筆者紹介

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono