コラム:細野真宏の試写室日記 - 第272回

2025年3月28日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第272回 ポン・ジュノ監督作「ミッキー17」から考える為替相場の理想とは?

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今週末2025年3月28日(金)からポン・ジュノ監督作「ミッキー17」が公開されました。

ポン・ジュノ監督が「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でアカデミー賞の作品賞、監督賞などを受賞してから初めての作品となったので映画ファンの期待値は高くなっていました。

ただ、どのくらい期待するのかで評価は分かれるのかもしれません。

まず、映画のような創作物は、作り手の力量によって作品のクオリティーが大きく異なります。

そのため本作を「ポン・ジュノ監督作品だから」という理由で見てみるのはとても適確な行動だと思います。

その一方で、そもそもなぜ「ポン・ジュノ監督作品だから見よう」と考えたのでしょうか?

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おそらく多くの場合は、前作の「パラサイト 半地下の家族」が面白かったから、という理由ではないでしょうか。

パラサイト 半地下の家族」はアカデミー賞効果が絶大で興行収入が47.4億円の大ヒットを記録したので、この作品でポン・ジュノ監督作品に初めて触れたという人が一気に増えたのです。

確かに「パラサイト 半地下の家族」の完成度はとても高かったです。ポン・ジュノ監督は、自ら「脚本」を書き、レイアウトやカメラの動きなどを精緻に指定する「絵コンテ」も描き上げることで知られています。そのため、“監督の個性”がかなり作品に反映されるようになっているのです。

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ミッキー17」は、起こり得る未来の1つの可能性として興味深い作品だと思います。

科学技術の進化に伴って人間のデータがスキャンされ、それが3Dプリンターで再構築されるような近未来の社会。

そんな世界ではどんなことが起こり得るのか――原作の「ミッキー 7」でその部分が描かれていて、同作を読んだポン・ジュノ監督が気に入って「ミッキー17」として映像化したのが本作です。

本作を見て思ったのは、「映像表現は申し分がない」ということでした。

それは「パラサイト 半地下の家族」でも冴え渡っていたように、緻密な「絵コンテ」によって計算されたカットになっているからで、これはポン・ジュノ監督作品の良さなのでしょう。

本作の大きな特徴となるクリーチャーの存在ですが、これは「グエムル 漢江の怪物」(2006年)あたりで感じたポン・ジュノ監督の個性から地続きとなるもの。このように過去作との関連から本作が存在しているため、これまでの“ポン・ジュノ作品”を通ってこなかった人にとっては、どれほど響くのかが未知数な面としてあります。

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とは言え、アカデミー賞の効果で制作費が大幅にアップしているので、潤沢な予算を使った映像は、過去作と比べてみても“見たことがないポン・ジュノ作品”だと言えそうです。

異例と言われた「パラサイト 半地下の家族」の制作費は1100万ドルと、韓国映画としては破格に高かったのです。それが、「ミッキー17」では制作費1億1800万ドルと、一気に10倍の規模になったのです!(本作は、ブラッド・ピッドがプロデューサーを務める制作会社「プランB」などが出資をしています)

さて本作はすでにアメリカなどの主要国で公開されていて、現時点での世界興収は1億1075万ドルとなっています。

その一方で、制作費1億1800万ドルに加えてP&A費が8000万ドルかかっているので、これらのコストよりも多く稼がないとリクープできません。

具体的には、今後の2次利用も含めても、世界興収で2億7500万ドル〜3億ドルが必要とされているのです。

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もしも日本で「ミッキー17」が「パラサイト 半地下の家族」級の大ヒットを記録して興行収入50億円の大ヒットを記録したとしましょう。

これをドルで換算すると「1ドル=150円」として3333万ドルとなります。

ただ、もしも為替が「パラサイト 半地下の家族」の2019年の水準「1ドル=100円」の段階であれば5000万ドルとなっていたわけです。

つまり、「パラサイト 半地下の家族」の時より日本経済が世界に与える影響は(為替の観点からは)0.66倍に縮小しているのです。

このように見ていくと、円安に突き進んだ為替相場によって、ハリウッド映画に対する私たちの影響力が大きく低下することにつながっていて、何だかんだとロシア・ウクライナ戦争が始まる前の「1ドル=100円」の水準がバランス的に望ましく思えます。

ただ、ロシア・ウクライナ戦争が終わったら為替相場が元の水準に戻るのかというと、残念ながら私はそうはならないだろうと考えています。

いずれにせよ、日本で起こっているハリウッド映画不振は、興行収入と為替相場の両面から考える必要性があるのです。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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