コラム:細野真宏の試写室日記 - 第25回

2019年4月10日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第25回 「コナン」「ドラえもん」「しんちゃん」の興行収入の行方

2019年4月8日@東宝試写室

春休みは例年通り「ドラえもん」が好調で、もはや「ドラえもん」は、出来がよほど悪い作品を作らない限り、しばらくは興行収入50億円規模を見込めるコンテンツに成長したように思います。

また、「翔んで埼玉」は春休みも好調を維持し、昨年に社会現象的な大ヒットとなった「カメラを止めるな!」の31.2億円を超えるところまできました!

そして、これから春休みの終わりとともに、日本の映画業界では“恒例の流れ”が続くわけですが、今年はいつも以上に注目してみたいと思います。

まずは、「クイズ」から。

問題 1997年から公開されている劇場版「名探偵コナン」シリーズは今年で23作目で、1993年から公開されている「映画クレヨンしんちゃん」シリーズは今年で27作目ですが、最初の興行収入はどちらが高かったのでしょうか?

まず「映画クレヨンしんちゃん」の1作目の興行収入は22.2億円でした。これは、昨年の「爆盛!カンフーボーイズ 拉麺大乱」の興行収入が18.4億円だったので、想定内の数字ですよね。

次に劇場版「名探偵コナン」ですが、昨年に「試写室日記」で取り上げた「名探偵コナン ゼロの執行人」は、過去最高の出来だけあって興行収入が91.8億円にも達しました。でも、実は1作目の興行収入は11.0億円と、初回の勝負では「クレヨンしんちゃん」の半分しか稼げていなかったのでした。

つまり、劇場版「名探偵コナン」シリーズは興行収入の伸び方が、かなり興味深い領域にまで達してきているのです。

劇場版「名探偵コナン」シリーズの興行収入は、大まかに言うと、3作目から16作目までは「30億円規模」で推移していました。

それが、18作目の「異次元の狙撃手」で興行収入41.1億円、19作目の「業火の向日葵」で44.8億円と「興行収入40億円台の作品」となり、さらに20作目の「純黒の悪夢」で突然63.3億円、21作目の「から紅の恋歌」で68.8億円と「興行収入60億円台の作品」にまで成長し続けているのです。

そして、22作目でクオリティーが最高潮に達した「名探偵コナン ゼロの執行人」では遂に興行収入が90億円を突破するという快挙を成し遂げました!

「名探偵コナン ゼロの執行人」
「名探偵コナン ゼロの執行人」

こうなってくると、「6年連続で過去最高の興行収入を記録し続けているのだから次はもっと上に」と考えるのが自然でしょう。

ただ、私はそう考えるのは少しハードルが高いのでは、と思っています。

それは、昨年の「名探偵コナン ゼロの執行人」の出来が良すぎた面があるからです。

やはりミステリー(謎解き)の分野は、脚本制作の難易度が高いものなのです。

そのため、制作のハードルが上がれば上がるほど、脚本をより凝ったものに仕上げようとするわけです。

そうなると、どうしても詰め込み過ぎたりして、バランスが取りにくくなってしまうのです。

例えば「ギリギリ論理はつながっているように見えても、偶然が多すぎる(もしくは強引な展開が多すぎる)作りになる」などです。

結果的に、脚本に関しては昨年の方が優れていて、それを基準にするのは少し酷なのでは、と思っています。

昨年の「名探偵コナン ゼロの執行人」は「殿堂入りを果たした作品」というイメージを持っているほうがバランスが良い気がします。

以上を踏まえたうえで考察すると、本作「名探偵コナン 紺青の拳」の脚本家は21作目の「から紅の恋歌」でも脚本を担当していますが、「から紅の恋歌」との比較で言うと、圧倒的に本作の方が出来は良いです。

「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」
「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」

昨年から、おそらく劇場版「名探偵コナン」シリーズは、ターゲットの年齢層を上げてきていると思っていて、それは正しい戦略だと私は考えています。

さらに、脚本だけではなく、作画のレベルも年々上がっているように思えます。

このサイクルも、劇場版「名探偵コナン」シリーズの興行収入が上昇基調を生み出せている原動力になっているのでしょう。

そのため、本作は「から紅の恋歌」の68.8億円を超える興行収入70億円台には到達してほしいところです。

さて、読み切れない要素としては、今回は「映画クレヨンしんちゃん」と同日公開にしなかった点です。

昨年までは確実に食い合いが起こっていたので、それがなくなるため、今週の金曜日(4月12日)から公開される「名探偵コナン 紺青の拳」の初動の興行収入が例年以上に大きな金額になりそうな予感がします。

そして「10連休」もあります。

この2つの要素が上手く作用すれば、興行収入が80億円台など、さらに大きな興行収入が期待できるのかもしれません。

このところ「コナン」にばかり注目が集まっていますが、実は、今年は「映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」(4月19日公開)の脚本の出来が非常に良いのです。

「映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」
「映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」

「クレヨンしんちゃん」と言えば、埼玉県の春日部が舞台。「翔んで埼玉」と同様に、「隙あらばギャグ!」のような攻めた妥協のない脚本にはとても好感が持てます。今年の埼玉は何かが違うようです(笑)。

ちなみに、「映画クレヨンしんちゃん」シリーズで過去最高の興行収入は23作目の「映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃」の22.9億円です。ただ、私は23作目が一番出来の良い作品とは思っていなくて、これは21作目の「映画クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」と22作目の「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん」の出来が良かったから、その期待で過去最高の興行収入が達成できたのだろうと考えています。

今回の「新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」については、欲を言えば「ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん」の時のような“魅せる作画シーン”があると、より良かったのですが、良い意味で安定した作画なので「過去最高レベルの出来」なのかもしれませんね。

今年は、公開日的には不利になりましたが、「しんちゃん」についても、作品の出来に合わせて興行収入が過去最高を記録できるかどうか注目です。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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