コラム:細野真宏の試写室日記 - 第245回
2024年7月11日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第245回 「キングダム」遂に“最終章”!「大将軍の帰還」はシリーズ最高興行収入を記録できるか?
いよいよ今週末7月12日(金)から〈シリーズ最終章〉となる「キングダム 大将軍の帰還」が公開されます。
2019年4月19日公開の第1弾「キングダム」が興行収入57.3億円となり、「2019年公開の邦画実写作品で興行収入1位」を記録しました。
この実績を考慮し、第2弾「キングダム2 遥かなる大地へ」(2022年7月15日公開)、第3弾「キングダム 運命の炎」(2023年7月28日公開)、そして節目となる第4弾「キングダム 大将軍の帰還」の続編にゴーサインが出ました。
このシリーズは中国での撮影などもあり、制作費が高く、第1作目の段階で、「全国300スクリーンで公開される一般的な邦画の5本分」とされています。
そのため、第2弾から第4弾までを一気に作ることで、制作費を抑える工夫もなされたわけです。
とは言え、それでも第2弾から第4弾の制作費は、それぞれ「全国300スクリーンで公開される一般的な邦画の7本分ぐらい」とされていて、制作費が第1弾よりも上がる力の入れようでした。
ただ、大作映画であるため、舵取りが難しい面もありました。
まず、第2弾「キングダム2 遥かなる大地へ」は、想定よりも興行収入が伸びず、公開から約1カ月後の8月11日より80頁の「キングダム伍巻」100万冊が入場者特典につくことになりました。
こうした施策が功を奏し、(前作よりは落ちてしまいましたが)興行収入51.6億円となり、「2022年公開の邦画実写作品で興行収入1位」を記録しました。
第3弾「キングダム 運命の炎」は、第2弾の興行収入が第1弾よりも落ちたこともあり、通常の想定では、第2弾よりも落ちるのが自然ではありました。
ところが、第3弾「キングダム 運命の炎」は興行収入56億円と、入場者特典を使わずに第2弾の51.6億円を抜くことができ「2022年公開の邦画実写作品で興行収入1位」も記録したのです!
この背景には、「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」に通じるものがあります。
「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」はゴールデンウィーク(GW)映画ですが、例年GWを過ぎると「閑散期」になります。
ただ、今年はライバルとなる新作映画のパワーが強くなく、週末ランキングに残り続け、シリーズ最高興行収入を記録しても、なお伸び続けています。
同様に、「キングダム 運命の炎」は夏休み映画ですが、新作映画のパワーが強くなく、(第2弾が2週連続1位に対して)週末ランキングで4週連続1位となるなど、運も味方していたのです。
さて、今回の「キングダム 大将軍の帰還」は大きな節目となる〈シリーズ最終章〉ですが、興行収入はどのようになるのでしょうか?
まず、マイナス面を挙げると、今年はGW映画以降の閑散期があまりに長く、「映画館に人が押し寄せる流れができるのか?」といった心配もあるでしょう。
また、上映時間は146分と、これまでで一番長くなっています。
結論から言うと、これらは、あまり心配する必要はないと思います。
なぜなら、ここ最近の新作映画はパワー不足な面が否めませんでしたが、本作には、人を呼び込めるパワーがあるからです。
上映時間についても、「キングダム」シリーズは130分台が標準で、せいぜい15分程度の差は、体感的に長くは感じませんでした。
同様に、プラス面を挙げると、これまでの「キングダム」シリーズは、この「キングダム 大将軍の帰還」を描くために作られ続けたものでした。
そのため、内容的に、最も見応えがあり、パワーを発揮するのです!
本作における実質的な主役は、 山﨑賢人が演じる信ではなく、大沢たかおが演じる王騎であると言えます。
思えば、第1弾「キングダム」の段階で、出番が少なくても、王騎の存在感が半端ない状態でした。
本作では、その王騎が、登場シーンにおいてもメインで登場し続けるのです。
そのため、戦闘シーンの迫力が過去3作品と比較にならないレベルになっています。
このように考えると、これまではすべて興行収入50億円台となっていましたが、本作はシリーズ最高を更新し、60億円を余裕で突破できるでしょう。
ここしばらく映画業界は、やや厳しい状況に陥っていましたが、本作を機に、一気に期待作が投入されていきます。
つまり、「キングダム 大将軍の帰還」から2024年の映画業界の反転攻勢が始まるような非常に重要な作品となるので、大将軍により景色がどう変わっていくのか大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono