コラム:細野真宏の試写室日記 - 第222回
2023年11月21日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第222回「翔んで埼玉」まさかの続編!「琵琶湖より愛をこめて」はヒットするのか?
2019年2月22日から劇場公開された「翔んで埼玉」ですが、作品の出来を考えると「ヒットしないとおかしい」と考えていました。
ただ、あまりに異色すぎますし、関東圏が舞台なので客層が狭まるのでは……という懸念がありました。
ポテンシャルとして「興行収入20億円規模はある」と想定できましたが、本作で特筆すべきポイントがありました。
1つ目は「口コミ」の威力。
映画は公開初週から2週目、3週目となると、どんどん客足が弱まっていくのですが、「翔んで埼玉」は「口コミ」で“落ちない興行”を続けました。
そして、早くも公開2週目の段階で関係者の間では続編構想へのムードが高まることになっていたのです…!
ただ、個人的な感覚値としては、関西圏の人に「翔んで埼玉」を薦めても反応が弱く、これは実際の観客動員データでも明らかになっています。
私は東京に住んでいますが、電車に乗っていると、行ったことはない場所でも、車内アナウンスなどで意外と地名を知っていることに気付きました。
そのため、関東圏の「小ネタ」も楽しむことができましたが、関東圏以外では厳しいのかもしれなかったのです。
とは言え、“本拠地”の「埼玉県」における熱量は異様なまでに盛り上がり、埼玉のシネコンでの上映回数は「翔んで埼玉」が多数を占めるほどでした。
そうして1点突破型のプチ社会現象化となり、興行収入37.6億円という大ヒットを記録するまでになったのです!
2つ目の特筆すべきポイントは「作品への評価」です。
かなりバカバカしい作品なのですが、出来が良いので全力で絶賛していたら、本来はスルーされるであろう日本アカデミー賞で奇跡が起こりました。
優秀作品賞、最優秀監督賞(武内英樹)、最優秀脚本賞(徳永友一)、優秀主演男優賞(GACKT)、優秀主演女優賞(二階堂ふみ)、優秀助演男優賞(伊勢谷友介)、最優秀編集賞、優秀撮影賞、優秀照明賞、優秀音楽賞、優秀美術賞、優秀録音賞と、最多12部門で受賞したのです!
個人的には、最優秀監督賞を受賞したフジテレビの武内英樹監督が日本テレビの生放送でスピーチをしていたのが、「翔んで埼玉」さながらシュールで面白かったです。
第2弾の「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」は、2021年8月11日に制作決定が発表されましたが、実は2020年の段階で制作が決定していました。
第1弾の「翔んで埼玉」の時もそうでしたが、きっと誰もが最初は「コケそう」と思うような作品です(笑)。
私は第1弾の時は、かなり出来の良い作品だったのでプロモーションを頑張りましたが、そんな私でも「さすがに第2弾は厳しいだろう」と思っていました。
ところが、今回のマスコミ試写で異変を感じました。
東映の試写室は小さくないですし、通常は回数も多く回るので、基本「満席の状態はない」というのが私の認識です。
実際に「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」の試写回数も多かったのですが、予約画面を見て驚きました。
直近の回だけでなく、少し先まで「満席」という表示が出ていたのです…!
おそらく全ての試写が満席になるくらいの注目度だったのです。
これは東映史上初の出来事かもしれないくらいのインパクトでした。
この注目度の高さを考えてもコケることはなさそうだと思いました。
そして実際に試写で本編を見てみたら、良い意味で第1弾を踏襲し成立していたのです。
第2弾の特徴は、第1弾で弱かった関西圏への訴求です。
メインの舞台を関西圏にすることで、今度は「関西人のための映画」になっているのです。
では、関東圏の人は面白くないのか、というと、すでに第1弾で作品のDNAを取り込んでいるので、自然と作品の中に入り込めます。
このように、第2弾では第1弾よりも客層が広がるポテンシャルを持っているのです。
通常の映画の場合は、続編の興行収入は前作の8掛けくらい、というのが一般的です。
例えば、同じ武内英樹監督のコメディ映画「テルマエ・ロマエ」は興行収入59.8億円でしたが、続編の「テルマエ・ロマエII」は7.4掛けくらいの44.2億円になっています。
このように考えると本作の興行収入は30億円くらいになりそうです。
ただ、本作の場合は、関西圏を巻き込むので前作より客層は広くなっています。それも加味すると前作並の35億円くらいまで行けるのかもしれません。
制作陣は、さらなる“埼玉化の野望”を秘めているので、間違いなく続編の構想はあるでしょう。
果たして第3弾が作られるほどの大ヒットを記録するのか? 大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono