コラム:細野真宏の試写室日記 - 第152回
2021年12月22日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第152回 「キングスマン ファースト・エージェント」。過去2作と作風が変わった理由は?
今週末12月24日(金)、ようやく「キングスマン ファースト・エージェント」が劇場公開されます!
これは、文字通りの“ようやく”と言えるでしょう。ハリウッド映画の日本公開は、基本的にアメリカでの公開に連動しています。本作は当初、2019年11月8日にアメリカで公開を予定していました。
しかし、配給元の20世紀フォックスがディズニーに買収されたことで2020年9月18日公開予定と延期になり、その後は新型コロナの影響を受けて2021年2月26日公開予定と再び延期に。その後も紆余曲折があり、最終的に2021年12月22日の公開となりました。
そして、日本では通常の週末に合わせる形で12月24日(金)公開となったのです。つまり、「キングスマン」ファンは実に2年近くも公開を待っていたわけです!
そもそも、この「キングスマン」シリーズは日本では独特な作品です。2015年の第1作「キングスマン」は、配給元がKADOKAWAでした。
それは、単純に「日本では当たらないだろう」と20世紀フォックスが判断したようで、配給権をKADOKAWAに譲ったからです。
ところが、実際にはかなり面白い作品で、日本の映画ファンも飛びつき、興行収入9.8億円のヒットを記録しました。
そして、続編となる「キングスマン ゴールデン・サークル」が2018年に公開されました。この時の配給元は20世紀フォックスとなり、興行収入17.1億円を記録しています。
「キングスマン」シリーズが大きく注目される理由にマシュー・ヴォーン監督の存在があります。
マシュー・ヴォーン監督といえば、2010年に日本では小規模公開され「口コミ」でスマッシュヒットとなった「キック・アス」を作った人物。
翌年の2011年には「X-MEN」シリーズで最高傑作と評されることの多い「X-MEN ファースト・ジェネレーション」でも監督・脚本を手掛けるなど、才能のあるクリエイターです。
そんな彼が初めて「シリーズ全作」を監督しているのが「キングスマン」シリーズなのです!
さて、今回の「キングスマン ファースト・エージェント」が特殊なのは、前作のような“一見さんお断り”作品ではなく、タイトルのように「キングスマン」の“最初のエピソード”を描いています。
そのため、特に予備知識がなくても作品に入り込めるようになっているのです。と同時に、本作は、これまでの「キングスマン」ファンが見ると、少し困惑する面があるのかもしれません。
実際に私は最初に「字幕版」を見ましたが、「あれ?」という感じになりました。それは、割と「作風が違っていた」からです。
どうやら本作は、マシュー・ヴォーン監督の「本格的な戦争映画を作りたい」という製作意図があったようなのです。確かに“本格的な戦争映画”の風格を感じることができました。
前作の「キングスマン ゴールデン・サークル」は、正直、悪ノリし過ぎで「あれ以上に過激になっていたら嫌だな」と思っていたので、そういう意図であれば今回の作風もアリかと納得しました。
意図を理解した後で「吹替版」で再確認してみると、確かに良く出来ていました。通常の「戦争映画」と「キングスマン」シリーズらしい“スタイリッシュかつダイナミックなアクション”が見事に融合していたのです!
ちなみに、本作の「字幕版」と「吹替版」は、どちらも出来が良く、これは好みで決めたらいいのでは、と思います。
本作の時代背景は1900年初頭で、イギリスにある、どの国にも属さない中立スパイ機関「キングスマン」の誕生秘話が描かれています。
そして、“本格的な戦争映画”らしく、第一次世界大戦周辺に実在した人物が登場しているのです。
予備知識としては、「ラスプーチン」という催眠療法などを駆使していたとされる「ロシアの怪僧」のことは知っておいた方がいいかと思います。
それ以外では、「アーサー王」と配下の12人の「円卓の騎士」の話もぼんやりと知っておいた方がいいのかもしれません。これは、「キング・アーサー」のように映画化されていたり、「Fate」シリーズでモチーフになっているため知っている人は多いと思いますが。
このように本作は、歴史上の史実に基づき物語が進められていて、「実はその背後には“キングスマン”という存在があった」という作風になっているのです。
最後に肝心の興行収入ですが、右肩上がりのシリーズではありますが、これまでと作風や登場人物が異なっているため、2015年の第1作「キングスマン」くらいの数字を出せれば十分だと思われます。
それは、たまたま同じ公開日に、多くのスクリーンが用意されている「劇場版 呪術廻戦0」という目標興行収入100億円の作品とぶつかるタイミングになってしまったことも考慮してです。
いずれにしても、この新しい“誕生秘話の物語”は、どのような形で第1作「キングスマン」と交差するのかという興味深い展開が、エンドロールの際の映像も含めて今後の大きな注目点となっています!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono