コラム:細野真宏の試写室日記 - 第12回

2018年10月24日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第12回 「search サーチ」。映画好きはサンダンス映画祭の観客賞という賞に注目しておくと良いことが?

2018年10月9日@ソニー試写室

私は、「名探偵コナン ゼロの執行人」や「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」など、良く出来た作品は、ジャンルは問わず単純に手放しで絶賛しますが、必ずしも大衆的な作品ばかりが好きなわけではありません。

「これまでで一番好きな作品は?」という問いをよく受けますが、これは本当に難題ですね。

メジャーな作品も勿論好きなのですが、一部の人にしか見向きもされなかったような作品も同じくらいに好きなのです。

今年の「日本の映画界での一番大きな出来事」といっても過言ではない樹木希林さんの死去がありましたが、例えば、今から10年前に是枝裕和監督×樹木希林が初のタッグを組んだ「歩いても 歩いても」で、公開前に是枝監督と新聞で対談をした際に私はこの作品の評価として、「自分が死ぬ前に、最後に見た映画がこの作品だったら満足できます」と素直に語りました。樹木希林とのコラボによって、明らかに是枝作品は、より深く進化しました。そして、最後の「万引き家族」では映像として樹木希林の死去のシーンを描きました。偶然にしてもあまりに良く出来た映画のような話で、是枝作品の今後が少し想像できない感じです。樹木希林という女優はそのくらいの存在感だったのだと思っています。

(C)2008「歩いても 歩いても」製作委員会
(C)2008「歩いても 歩いても」製作委員会

さて、「好きな作品」では同じ2008年に公開されたジョン・キューザック扮する父親が、イラクで命を落とした従軍兵士だった母親の死を幼い娘たちに告げることが出来ないまま一緒に旅をするロードムービー「さよなら。いつかわかること」という、恐らくほとんどの人が知らない作品もあります。この作品は、クリント・イーストウッドが惚れ込んで、自身の監督作品以外で初めて楽曲を提供したことでも有名で、私の中では「是枝作品×クリント・イーストウッド」のような雰囲気の位置付けになっています(勿論、是枝監督は一切この映画には関わっていませんが)。

ただ、これらの作品には「共通点」もあって、「映画祭での受賞作」でもあるのです。映画は興行的に成功しないと意味はないのかもしれませんが、やはり本当の名作は時を超えて評価されるべきだとも思っています。

その意味で、映画祭での評価というのは、記録として存在し続けるので、何かしらのきっかけで経済的な意味をもたらす可能性も低くはないのです。

「さよなら。いつかわかること」
「さよなら。いつかわかること」

私は「映画祭」で最も関心を持っているのは、やはり「アカデミー賞」で、次は、そのアカデミー賞の前哨戦の「ゴールデン・グローブ賞」です。その次は、というと、「サンダンス映画祭」です。このサンダンス映画祭には「観客賞」というのがあって、この一般の映画好きな人たちが決める賞には、意外な掘り出し物が多いのです。

さよなら。いつかわかること」もサンダンス映画祭で観客賞(ドラマティック部門)と脚本賞を受賞し絶賛され、アカデミー賞でも話題になった「セッション」も同じくサンダンス映画祭で観客賞(ドラマティック部門)を受賞していたりと、サンダンス映画祭ではアカデミー賞に絡むような良作が話題になることも多いのです。

まさに、今月の26日に公開される「search サーチ」もその流れの作品で、今年のサンダンス映画祭で見事に観客賞(NEXT部門)を受賞しました。

この「search サーチ」が面白いのは、なんといっても「パソコンの画面の中で全てのストーリーが展開する」ということでしょう。ツイッターもフェイスブックもやらない私としては、映画の表現手法は然ることながら「え、SNSの世界では、パソコン1台でここまでのやり取りができてしまうの?」という現実に驚いてしまいました。

「search サーチ」
「search サーチ」

まぁ昨年のアカデミー賞で話題になった「LION ライオン 25年目のただいま」では、「1万キロの捜索」さえも、「Google Earth」を使いパソコン1台でできてしまう社会になっていることを示してくれたわけですから、自然な流れなのかもしれませんが。

主演はJ・J・エイブラムス版の「スター・トレック」のクルーで有名になったジョン・チョウで、彼の演技が、一見すると単調そうな特殊な画面で途切れない緊迫感を持たせられたのかもしれません。監督はまだ20代の新鋭アニーシュ・チャガンティ。初監督がこの作品というのは、映画が新たな領域に入ってきたのかもしれないです。この手法が、他の作品にも通用するのかは未知数ですが、少なくとも「この映画は映像手法もストーリーも面白い!」ということは断言できます。

映画が好きな人は、ぜひ一度は見て、この斬新な作品を体験してほしいと思います。

とは言え、公開規模が60館という小規模なので、どこまで広がりを見せるのか注目です。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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