コラム:細野真宏の試写室日記 - 第103回

2020年12月9日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第103回 「鬼滅の刃」VS「新解釈・三國志」。勝つのはどっち?

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今週末公開作品でポテンシャルが高いのは、新作では343館と最も公開規模の大きな「新解釈・三國志」と、三浦春馬さん最後の主演映画となる「天外者」でしょう。

本来「天外者」は、有志で作ったような作品なので、週末ランキングでは通常はランク外でしょう。

ただ、(私を含め)三浦春馬さんの作品を応援したい人も少なくなく、公開規模は201館と中規模公開ながら上位には行けると思っています。

とは言え、公開規模の限界もあり、1位争いまでは厳しいと思うので、今週は「鬼滅の刃」VS「新解釈・三國志」の1位争いに焦点を当てて考察してみたいと思います。

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まず、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、今週末は、おそらく先週末(動員46万5850人、興行収入6億5551万9250円)から落ちが少ないか、場合によっては増加が見込まれ、動員75万人、興行収入10億円くらいは行けるポテンシャルがあると思います。

仮にそのペースで行けると、週末で興行収入300億円を突破することになります。

いずれにしても、今週末で「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の興行収入は300億円近くまで行くと想定されます。

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その一方で「新解釈・三國志」もポテンシャルが高いと思います。

まず、本作は公開時期をかなり狙いに行っている戦略の上手さがあります。

実は、本作は夏休みに公開された「今日から俺は!!劇場版」よりも先に制作されていたからです。

今日から俺は!!劇場版」は、2019年12月1日にクランクインし2020年1月21日にクランクアップしています。

一方の「新解釈・三國志」は、2019年の4月から5月頃にかけて撮影が行われているようです。

これは、東宝と日本テレビが、「今日から俺は!!劇場版」に自信を持っていて、まず「連ドラ効果」で成功しやすいものを先に公開し、その流れで「新解釈・三國志」を成功に導こうとしていると想定されます。

私は、この戦略は正しいと思っています。

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実際に「今日から俺は!!劇場版」は興行収入53億円突破という大ヒットを記録し、「福田雄一監督作品」のブランドを高めることに成功しました。

そして、映画は、予告編が極めて重要です。(映画館での予告編は、映画館に足を運ぶ人に対してダイレクトでPRできるため特に重要なのです)

映画館の予告編で、延べ2000万人を超える「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の上映前での宣伝だけでなく、かなり長い期間、様々な作品において宣伝ができました。

しかも、「福田雄一監督作品」というのをデカデカとアピールして!

私は、常々「福田雄一監督作品」のブランド化を願っていたので、この流れはとてもうれしく思っていました。

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ただ、こうした大きな仕掛けによって、私の中でハードルがかなり上がってしまっていたからなのか、「新解釈・三國志」の本編を実際に見た時には、「アレ…」という感じになってしまいました。

そこで、私の失敗を踏まえて「新解釈・三國志」の楽しみ方を考察したいと思います。

1.豪華出演者に過度な期待は持ちすぎないように!

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まず、本作の出演者は、大泉洋ムロツヨシ佐藤二朗賀来賢人橋本環奈岩田剛典渡辺直美山本美月磯村勇斗西田敏行小栗旬など、かなり豪華です。

でも、当たり前ですが、上映時間は113分しかないので、「あれ、これだけしか出ないの?」といった感じにならざるを得ない制約があるわけです。

これは、クオリティーが非常に高かった「今日から俺は!!」のドラマ版で、毎回、豪華俳優陣が少しだけゲスト出演していた状況を思い浮かべると分かりやすいと思います。

ただ、理由は分かりませんが、なぜか本作では「スベっている?」と感じるシーンが、これまでの福田雄一監督作品と比べて少なくなかったような気がしています。

(試写室では、男性の笑い声がちょいちょい聞こえていたので、本当に感じ方は人それぞれだと思いますが)

2.三谷幸喜監督作品とは比較しないように!

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これまで私は、福田雄一監督作品は、唯一無二の作品だと思っていて、比較は福田雄一監督作品だけで終わっていました。

ところが、本作では、福田雄一監督作品では珍しく西田敏行が三國志を新解釈する学者役でナビゲートをし、主役が大泉洋ということもあり、三谷幸喜監督作品を思い浮かべてしまいました。

私は、三谷幸喜監督作品もかなり好きなので、その面からもスケール等の違いを目の当たりにし、「アレ…」と感じてしまったのだと思います。

大きく分析すると、この2点に気を付け、期待を大きく持ちすぎなければ、これまでの福田雄一監督作品のように楽しめるのでは、と想像します。

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「三國志」というと、通常はカッコいいエピソードだらけの印象ですが、見方を変えると、こんないい加減な可能性だってあるんだよ、といった視点は福田雄一監督作品らしく面白いです。

そして、ラストは福山雅治の歌も含めてイイ感じだと思います。

さて、「新解釈・三國志」の興行収入ですが、「今日から俺は!!劇場版」は金曜日からの3日間では興行収入7億8800万円を記録しています。週末ランキングに関係する土日2日間では動員48万6000人、興行収入6億3100万円となっています。

これは、先週末の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が動員46万5850人、興行収入6億5551万円のため、ほぼ同じ規模になっているのです!

なので、もし「今日から俺は!!劇場版」のファン層を上手く取り込むことができ、今週末の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が先週末から動員を落とすと「V9」が達成できなくなる可能性さえあります。

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クオリティーの高いドラマ版の延長で「今日から俺は!!劇場版」は大成功しましたが、果たしてその流れを「福田雄一監督作品」のブランド力で「新解釈・三國志」が維持できるのか。

これは、どれだけ「福田雄一監督作品」のブランド力が高まったのかも分かるので、いろんな意味で興味深い週末になりそうです。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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