コラム:シネマ映画.comコラム - 第6回
2022年3月11日更新
「クナシリ」を緊急先行独占配信!
第6回目となる本コラムでは、ロシアのウクライナ侵攻を受け、3月11日より緊急先行独占配信がスタートしたドキュメンタリー「クナシリ」と、「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」をピックアップして紹介いたします。
「クナシリ」は、ロシアが実効支配する地、北方領土の国後島を映した作品で、そこで暮らすロシア人島民らの生活や島の様子を捉えています。北海道からわずか16キロに位置し、かつては四島全体で約1万7000人の日本人が生活していたという。戦後76年を経て、現在の国後島の様子をありのままに映し出した本作からは、ロシア人島民の厳しい暮らしぶりや日本に対する本音が見えてきます。
幼少期に強制退去の様子を目の当たりにした島民の当時を振り返る貴重な証言や、日本・ロシア間の平和条約締結への願い、生活苦を訴える切実な声などを、旧ソ連出身フランス在住のウラジーミル・コズロフ監督が、どちらにも偏ることなく客観的かつ淡々と映し出しているのが特徴です。両国の主張が膠着状態のまま政治に翻弄されてきた当事者たちの複雑な心境や実際の生活など、これまで知らされることのなかった国後島の“真実”が明かされることなどから、ロシアでは上映が拒否されました。
いまロシアの侵攻を受けたウクライナでは、町が破壊され、子どもを含めた民間人も犠牲者となり、多くの人々が故郷を離れて近隣諸国へ避難せざるを得ない状況が日々報道されています。本作の配給会社のアンプラグドは、「この映画をきっかけに、少しでも北方領土の実情を知り、国益の対立に巻き込まれた人々に思いを寄せる機会になればと思い、今回緊急で配信を行うことにいたしました」としており、収益の一部は、侵攻を受けたウクライナの人々の人道支援のために、国連UNHCR協会を通じて寄付するとしています。
コズロフ監督は、「本作で予言めいたことですが、私はロシアの侵略と軍事化の成長について話しました。それはすでに戦争の始まりでした。私は2014年のウクライナの侵略に憤慨し、それが元で3年間ベラルーシに戻ることができませんでした。映画館がこの映画の上映を拒否するかもしれません。それはあまりにも敏感なトピックだからです」とコメント。
国後島では、戦後の1947年から48年にかけて日本人の強制退去が行われ、日本政府は問題が解決するまで入域を行わないよう国民に要請しています。コズロフ監督は、ロシア連邦保安庁の特別許可と国境警察の通行許可を得て撮影を敢行。寺の石垣、朽ち果てた船や砲台、欠けた茶碗など、現在も島のいたるところに第2次世界大戦の痕跡が残っています。ロシア人島民たちがそれらを土から掘り起こしながら、日本人との思い出を振り返る表情や言葉からは、何とも言えない状況であることが伝わってきます。
語られる思い出やインサートされる写真、資料、風景や痕跡から、確かに日本人が暮らしていたであろう名残りが感じられます。しかし、ロシア人島民の厳しい暮らしぶりや、荒涼とした風景を見続けていると、郷愁のようなものはなく、そこが国後島であるとはわからない、ロシアの現実が広がっており、実効支配への疑問が浮かび上がってきます。ロシアによるウクライナ侵攻が一刻も早く停止されることを願いながら、改めて国益の対立に巻き込まれた人々に思いを寄せるきっかけになる作品です。
昨年12月4日からシアター・イメージフォーラムほかで劇場公開された本作は、シネマ映画.comで3月11日から21日まで緊急先行独占配信。視聴料金は1000円(税込)です。
なお、「クナシリ」とあわせて視聴されることをオススメしたい作品「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」がスクリーン2で配信中です。ポーランドのアグニエシュカ・ホランド監督が、スターリン体制のソ連という大国にひとり立ち向かったジャーナリストの実話をもとにした歴史ドラマ。凍てつくウクライナの地でジャーナリストが目にしたのは、想像を超えた悪夢としか形容できない光景でした。“ソ連の偽りの繁栄”が暴かれます。第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作品です。(執筆&編集者/和田隆)