コラム:シネマ映画.comコラム - 第2回

2021年9月16日更新

シネマ映画.comコラム

アッバス・キアロスタミ監督の傑作「友だちのうちはどこ?

本コラムの第2回目は、時代を超えて愛される名作を配信中のスクリーン2の作品の中から、映画好きの皆さんに是非見て欲しい作品をピックアップしてオススメします。まずはイランを代表する巨匠、アッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」です。

イラン北部の小さな村を舞台に、同級生モハマッドのノートを間違って持ち帰ってしまった少年アハマッドが、ノートを返すために遠く離れた友だちの家を探し歩く姿を描いた傑作です。ノートがないと友だちのモハマッドが宿題ができなくて退学なってしまうことから、走り出し、何度も道に迷い、大人たちに翻弄されながらも必死に探し回りますが、なかなか見つけることができません。イランののどかな風景の中で、アハマッド少年の不安げな表情やつぶらな瞳、困り切った焦燥感、そして勇気を出して小さな冒険に踏み出し、友だちのうちを見つけだそうとする姿が、見る者の胸に迫ってきます。

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キアロスタミ監督は、いわゆる職業俳優を使わず、村の住人や子どもたち、実際の家や学校を使用して撮影し、フィクションとドキュメンタリーの間の微妙なバランスを保つスタイルを確立しましたが、そんな撮影スタイルを象徴する作品です。

1987年製作のイラン映画ですが、日本初公開は1993年でした。当時、初めてミニシアターで見た時の衝撃は今でも忘れません。それまでハリウッド映画や香港映画、アクションやエンタテインメント作品を多く見てきた筆者にとって、「映画」というものの概念を覆されたようでした。フィクションの物語映画でありながら、スクリーンに映し出されるその世界は真実のようで、それまでの映画で味わったことのない映画表現の領域に入り込んだような感覚に陥り、見終わった後は感動でしばらく立ち上がれませんでした。

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この映画を見た人生と、見ていない人生とでは豊かさが違うと言えるほど、「友だちのうちはどこ?」とのであいは至福の時間となることでしょう。映画に関わって生きていこうと決意させてくれた作品の一本です。ちょうど成人前の時期だったということも影響しているかもしれませんが、世界にはまだまだ知らない国や文化、日本人とは異なる習慣を持った民族がいること、映画表現も国によって異なるという、未知の領域を教えてくれました。そして、そんなキアロスタミ監督が日本の小津安二郎監督のファンであることを知ると、映画的な系譜までが浮き上がってくるのです。

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純朴なアハマッド少年が何度も駆け抜ける「ジグザグ道」の風景は、その後の作品「そして人生はつづく」「オリーブの林をぬけて」に受け継がれ、“ジグザグ道三部作”と言われています。シネマ映画.comでは、この“ジグザグ道三部作”をはじめ、キアロスタミ監督の長編デビュー作「トラベラー」、傑作ドキュメンタリー「ホームワーク」、第50回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「桜桃の味」、そして第55回ベネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞した「風が吹くまま」も配信中ですので、「アッバス・キアロスタミ監督特集」としてあわせてご視聴いただけると、キアロスタミ映画のリアリズムとフィクションの関係性や創作の流れも見えてきて、より楽しめると思います。

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なお、生誕81年、没後5年を迎えたキアロスタミ監督のこの7作品をデジタルリマスター版で上映する特集「そしてキアロスタミはつづく」が、10月16日から東京・渋谷のユーロスペースほか全国で順次開催されます。シネマ映画.comでキアロスタミ監督作品を見て魂を揺さぶられたら、大きなスクリーンでも見て欲しいです。(執筆者/和田隆

アッバス・キアロスタミ監督
アッバス・キアロスタミ監督

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