コラム:若林ゆり 舞台.com - 第9回
2014年6月20日更新
第9回:「オーシャンズ11」をたった1人で受けて立つ色悪・橋本さとしの男くささにシビレる!
ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットなど、豪華オールスターが競演して大ヒットした「オーシャンズ11」。よく考えるとこの物語は、けっこうアンフェア。ダニー・オーシャンと仲間たちという各ジャンルのエキスパートが11人がかりで、よってたかって潰そうとする相手はたった1人。ラスベガスのホテル王、テリー・ベネディクトだ。この役が魅力的でないと物語は成立しない。映画ではアンディ・ガルシアが演じたこの役に挑んでいるのは、ミュージカル界での活躍がめざましい、橋本さとし。彼は今回の役作りにあたり、映画版ベネディクトだけではなく、「ゴッドファーザー」でマーロン・ブランドが演じたドン・コルレオーネも意識しているという。
「僕は舞台で育ってきた役者ですけど、もともとは映画も好きでよく観ています。とくに夢中になったのは、小学生の頃から大好きな「ゴッドファーザー」です。いまも楽屋の鏡前にはマーロン・ブランド扮するドン・コルレオーネの写真が貼ってあるんですよ! あの貫禄はどうやったら出せるのかなあと思いつつ。僕が演じているベネディクトもこんな貫禄が出せたらいいのかなと。ベネディクト役は映画ではアンディ・ガルシアが演じていましたが、彼は目がいいなと思ってね。映画では役者の目がよく映るし、その役者の目を通して思いを伝えるという演技ができるじゃないですか。アンディ・ガルシアを初めて見たのは「アンタッチャブル」なんですが、あのときの彼の演技というのは強烈で。まだ駆け出しの頃だと思うんですけど、あのワイルドなギラギラした目がすごいなと、印象に残っていたんですよ。その人の役をやるというのは光栄ですし、映画ファンとしてはたまらないですね」
ベネディクトは“ワル”だが、恵まれない環境から身ひとつで財をなした、成り上がりなりの美意識を持った男。その人間くささがやけに魅力的でゾクゾクさせられる。まさに“色悪”の権化だ。
映画「オーシャンズ11」を初めてミュージカル化したのは、宝塚だった。それを今回、日本人男性キャストがメインとなって演じているわけだが、映画にも宝塚にもひけをとらないカッコよさ。なかでもベネディクトは間違いなく、橋本の濃い風貌を活かした存在感と色気、ギラギラ感で観客を圧倒する。
「(香取)慎吾くんにしても(山本)耕史くんにしてもみんな、カッコいいじゃないですか。すっと立って振り向いただけで“きゃー!”と言わせるようなオーラを持っていますから。宝塚にしたって美意識とか美学というところでは、とても太刀打ちできない。
このカンパニーで僕らが宝塚版と勝負するなら、男臭さで行くしかない(笑)。見比べられて、『ああ、これは比べられないよね』って言っていただくのが今回は僕らの仕事だと思っています。お客さんが最後、すごく盛り上がってくださるのがうれしいです!」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka