コラム:若林ゆり 舞台.com - 第89回
2020年7月7日更新
コロナ禍で2本の演劇作品が中止に追い込まれたケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)も、無念の気持ちを創作意欲に変換。本来なら「欲望のみ」というブラックコメディでタッグを組むはずだった古田新太ら仲間たちと、新たなエンタテインメントに挑戦する。その名も「CUBE produce PRE AFTER CORONA SHOW」。約100分のコント映像作品「PRE AFTER CORONA SHOW The Movie」と、下北沢の本多劇場で無観客上演するナンセンスなリーディングアクト「プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険~」ライブ配信の2本立てだ。前日には観客を入れてのゲネプロ(配信なし)も行うという。
KERAは「欲望のみ」のチームで「公演の代わりの何か」ができないか模索するも、リモート演劇に踏み出す気にはなれなかったという。「それらは演劇のようでいて、決して演劇ではない。『演劇のようなもの』です。『演劇のようなもの』は『演劇のよう』でありながら、私が感じている『演劇の魅力』を何ひとつ擁しない。この度『PRE AFTER CORONA SHOW』の旗印の下にお届けする2つの作品も『演劇のようなもの』でしかなく、『演劇』と比べられちゃあたまらないのですが、『演劇』ができない時期、『何もしない』という選択肢もある中で、これならやってもよいのではないだろうかと思えた企画であります。やってみました。我々が2020年の春~夏にどんな風に足掻いていたかの記録でもあります」と思いを述べている。
「CUBE produce PRE AFTER CORONA SHOW presentsリーディングアクト『プラン変更~名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険~』」本公演無観客生配信は、7月12日午後3時から(同月19日までアーカイブ販売あり、チケット料金は税込3500円)。またコント映像作品「PRE AFTER CORONA SHOW The Movie」は、同月12日午後5時から(同じく19日までアーカイブ販売あり、チケット料金は税込2500円)。詳しい情報は公式サイト(https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/preaftercoronashow)へ。
続く渋谷のBunkamuraシアターコクーンは再始動にあたり、NTT東日本と提携。岸田國士の戯曲「恋愛恐怖病」を軸にしたライブ配信作品「プレイタイム」を森山未來、黒木華の共演で上演する。これは構成・演出に梅田哲也、演出・美術に杉原邦生を迎えて創作する“ライブ配信のための演劇”。眠っていた劇場に、次第にスタッフが集まって俳優の声が響き渡り、岸田の世界が立ち上がっていく。映像と演劇の境界を泳ぎながら「演劇とは何か?」に迫る意欲作だ。
キャストのふたりも企画から参加。森山は「稽古では、『演劇とは』『虚構とは』というところから一個一個さまざまな目線で丁寧に紐解いて考えている感じが面白い。今後、映像でも映画でも演劇でもない、こういったメディア表現がもしかしたら定着していくかもしれないとも思っていて。だとすれば、その入り口に立っているかもしれない僕たちが、これまでは劇場という密室にいる人だけが共有できていた人間の愛おしさ、泥臭さ、生々しさといった舞台の醍醐味を、映像を通してどう届けられるかまで、考えなければいけないと思っています」と胸中を明かす。黒木は「まず劇場を使って何かできることのありがたさを感じました。演じ方という点では、今回は映像と舞台の技術を混ぜ合わせる感じかな。舞台だけど大きな声でなくても平気だし、映像だけど『ここは砂浜』と言えば虚構が成立する。映像と舞台、両方の“いいとこ取り”ができれば」と、劇場愛のこもったユニークな企画への熱意を語っている。
「プレイタイム」は7月12日午後7時30分からライブ配信され、チケット料金は2500円(税込)。詳しい情報は公式サイト(https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/20_playtime.html)へ。
さて、公演中止決定後の4月、歌舞伎座で無観客上演した作品を収録、無料配信した歌舞伎。トークライブ「歌舞伎夜話」に続き、今またさらに新しい形での配信にチャレンジしている。史上初の、オンラインのために作られる歌舞伎「図夢歌舞伎(ズーム歌舞伎)」。構成・演出、そして出演までやってのけるのは、歌舞伎界きってのアイディアマン、松本幸四郎(10代目)だ。リアルタイムの臨場感に加え、ビデオコミュニケーションツール“Zoom”を用いることで、別空間で演じる俳優や、事前収録の幸四郎自身とリアルタイムの幸四郎が画面上で共演するという驚きの演出も盛り込み、新たな世界を創出。さらには、リアルタイム配信の可能性を最大限に探り、チャット機能を活用した“双方向での上演”で、劇場での歌舞伎公演とは異なる”新たな一体感”を目指す。演目は「仮名手本忠臣蔵」。全十一段の通し狂言を5回に分けて、インターネットで開幕。第1回は6月27日に終了し、大きな反響を呼んだ。
幸四郎は「舞台に立てない今、これからの新たな歌舞伎の形を考えて取り組む第一歩として、舞台中継とも映像作品とも異なる、新たな歌舞伎の可能性を目指します」と意気込みを語っている。「歌舞伎の手法を用いた映像表現ができないものか……20年来の夢でした。果たして、歌舞伎の歴史に新たな1ページを刻むことができるのか、お客様と一緒に作り上げ ていきたいと思います。これまで歌舞伎に触れたことがない方にも、是非、1人でも多くのお客様に観ていただけることを願っております」
6月27日にスタートした図夢歌舞伎「忠臣蔵」は7月25日まで、5回にわたり毎週土曜の午前11時から配信される。チケット料金は4700円(税込)。詳しい情報は歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」(https://www.kabuki-bito.jp/news/6229/)へ。
さて、図夢歌舞伎「忠臣蔵」に顔世御前役で出演していた中村壱太郎も、尾上右近とともに大胆なチャレンジに打って出る。それが「ART歌舞伎」。「伝統芸能」と「映像技術」と「アートデザイン」を融合させ、日本舞踊といっても“ビジュアル系”と言いたくなる、スタイリッシュな世界観を実現している。日本舞踊家や国宝級の和楽器奏者を招いているばかりでなく、衣裳、メイクでは冨沢ノボルや里山拓斗、edenworksといったモード界の達人の力も借りて贈る斬新作だ。壱太郎、右近からのコメントには、並々ならぬ覚悟が見える。「僕ら2人の生き甲斐である『踊り』そして『魅せる』に特化した作品を創りたい、そんな思いを胸に、素晴らしき仲間を得て、現在まさに作品を生み出しています。『歌舞伎・日本舞踊が劇場で上演できない』、そんな状況下だから創ったのだと言われて終わるような、そんな簡単な覚悟ではありません。やるからには続けていきたい、そして『今』に通じる作品でなくてはいけないことを意識し、現代に生きる魅力的すぎるアーティストの皆様の表現を身に纏い、『今』できる最大限の表現をここに詰め込みました。『ART歌舞伎』の字のごとく、美しくアートな世界を十分に味わっていただきたく思います」
ART歌舞伎は7月12日午後7時30分からライブ配信され、チケット料金は3000円(税込)。配信とは別の映像、壱太郎と右近の副音声がついたアーカイブ版チケット(税込3500円)も別途販売。詳しい情報は公式サイト(https://artkabuki.com)へ。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka