ミュージカル「ピピン」は日本語版も最高レベルで観客に魔法をかける! : 若林ゆり 舞台.com

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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第80回

2019年6月18日更新

第80回:ミュージカル「ピピン」は日本語版も最高レベルで観客に魔法をかける!

「マジカルな」という形容詞はよくミュージカルのキャッチコピーやレビューにも出てくるが、これほどこの言葉がふさわしい作品もないだろう。2013年に開幕した、ブロードウェイ・ミュージカルのリバイバル版「ピピン」だ。オリジナルは、スティーブン・シュワルツ(「ウィキッド」)の作詞・作曲、ボブ・フォッシー(「シカゴ」、映画版「キャバレー」)の演出・振付で、1972年に初演され、トニー賞に輝いた作品。そしてこれにワンダフルな意匠を凝らし、究極の“マジカル!”を実現しているのがダイアン・パウルス(「ヘアー」「ファインディング ネバーランド」)の演出版なのである。もちろんこちらもトニー賞獲得。これ(の来日ツアー公演)については本コラムの第33回でも賛辞を送っているのだが、ただいま公演中の日本語版についても、黙ってはいられない!

なんといっても本作は、パウルスをはじめとするブロードウェイ版のクリエイティブ・チームが再集結、来日してつくりあげたホンモノ、完璧なブロードウェイ・クオリティなのだ。日本人キャストも、いまの日本で実現しうる最高レベルが揃っている。若き王子の“自分探し”をメタシアター形式で描くストーリーに、パウルスは「シルク・ドゥ・ソレイユ」的なサーカスやアクロバット、イリュージョンを導入。ひっくり返ったおもちゃ箱のような様相を呈する舞台は、目がいくつあっても足りないほどで、もしも字幕を追っていたらきっと何かを見逃してしまうだろう。しかも、ここには哲学的な深いテーマやさまざまな隠喩が潜んでいるから、セリフや歌を日本語で楽しめる価値はものすごく大きいのである。

撮影:若林ゆり 撮影:若林ゆり

第33回でも書いたが、この作品をサーカスにインスパイアされたパウルスの演出は、理に適っているなとつくづく思う。それは、この作品の世界を支配する不思議な存在であり、サーカス・カンパニーの演出家でもあるリーディング・プレイヤーが観客を誘う冒頭の曲「Magic To Do」を聴けば明らか。この素晴らしい思いつきについて、稽古場で取材に応じてくれたパウルス本人に語ってもらおう。

「『ピピン』のリバイバル版を手がけるにあたって物語を考えたとき、ここにプレイヤーズという役の人たちがいることに注目したの。脚本にも何の説明もなく、リーディングプレイヤー、そしてプレイヤーズという役柄でしかない。そこで私は『このプレイヤーたちが、サーカスの一座のメンバーだったら?』と考えたわ。サーカスが街にやってくる感じって、わかるわよね? ミステリアスで、誘惑的。スリリングでもあって、ワクワクさせられ、危険な匂いもする。テントの外には必ず『さあ、お入りなさい!』と誘いかけている呼び込みがいるわ。『ピピン』では冒頭に『Magic To Do』という曲があって、リーディング・プレイヤーが『Join Us!』とお客様に向かって歌いかける。私はリーディング・プレイヤーに、呼び込み役を担ってもらおうと考えたの。『興味あるよね? 入りなよ! マジックを巻き起こすから』と」

撮影:若林ゆり 撮影:若林ゆり

オリジナル版の演出・振付を手がけたフォッシーもまた、サーカスに魅かれていたことは明白だった。

「具体的にサーカスの場面として書かれてはいなくても、フォッシー版にはジャグリングも、サーカス的なパントマイムもあった。その部分を、自分はさらに押してみようと思ったの。英語には『Do you run off and join the circus?(サーカスと一緒に夜逃げしちゃおうか?)』というフレーズがあってね。日常を捨て、家族を捨て、サーカスの一団に入って町を離れたいという誘惑を感じたことのある人は少なくないわ。実際には勇気がなくてそうしなかったとしてもね。日常から離れてひとときの夢を見るという意味でも、この作品にふさわしいと思っているの」

不可能に挑み、人々を驚かせるサーカスやアクロバットは、この作品の持つ「どこまで人生を価値あるものにできるか」というテーマにも通じている。

「この作品の脚本には「extraordinary(類まれな、特別な何か)」という単語が頻繁に出てくるの。自分が特別な存在であると証明するために、どこまで自分を奮い立たせるのか。サーカスやアクロバットは死の恐怖に抗って、自分が行ける極限まで自分たちを奮い立たせるでしょう。『この物語はアクロバットな人生そのもの、人が自分をどれだけ類まれだと証明できるかを描いている』というアイディアによって、サーカスがこの作品のメタファーになったの。演出家として私は、つねに第4の壁を破ることに興味があるのよ。客席と直接コンタクトして、つながるということに」

[筆者紹介]

若林ゆり

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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