コラム:若林ゆり 舞台.com - 第59回
2017年9月8日更新
第59回:ポップ&摩訶不思議な「オーランドー」の多部未華子は性別も時代も軽々と超える!
バージニア・ウルフが書いた小説「オーランドー」の主人公は、実に人を食ったキャラクターだ。登場したときは16世紀のイングランドで、女王までをも虜にする美少年。詩人を夢みる彼は、17世紀にトルコ大使として赴任したコンスタンティノーブルで6日間も昏睡した後、目覚めたときには女になっていた。18世紀に帰国し、19世紀で運命の男性と出会い、20世紀には300年以上生きたのに、やっと36歳。さまよえる彼/彼女は幸せをつかむことができるのか?
サリー・ポッター監督が映画化した「オルランド」(92)ではティルダ・スウィントンが演じたこの摩訶不思議な両性具有キャラを、若手実力派の多部未華子が舞台で演じる。アメリカの劇作家、サラ・ルールが大胆に翻案した戯曲を、白井晃が演出するというこの舞台は、非常にポップな作りになりそうだ。多部自身は、原作や映画とのギャップにかなり戸惑いを覚えたという。
「私は原作を読んでも、台本を読んでも内容がわからなくて、よく理解できませんでした。映画も見ましたが、全体的に重めな感じの印象を受けて。(オルランド役の)ティルダ・スウィントンさんは本当に素敵で綺麗だったのですが、それよりも見終わった後は『何が言いたかったんだろう?』と悩んでしまいました。なんで性別を超えたり時代を超えたりするのか意味がよくわからなかったんです。だから、ポスター撮影のときに衣裳がポップなビジュアルで『アレ?』と思って、混乱してしまいました。ギャップがありすぎて『本当にこれ……どうするんだろう?』と(笑)」
今回の舞台版は、言うなれば何でもアリ。オーランドーが常識や概念をものともしない人生を送るのと同種の自由さが、独特の魅力となって魅了してくれそう。
「私はオーランドーという人物だけしか演じませんが、小日向文世さんや小芝風花さん、戸次重幸さん、池田鉄洋さん、野間口徹さんがコーラスとして、役回りをいろいろと変わりながら演じるんです。それも面白いと思います」
性別も時代も超えて生きるオーランドーは複雑な人物だけれど、性別や時代が変わっても人間としては少しも変わらない、純粋な人。そういう意味では非常にわかりやすい人物だとも言える。
「そうですね、性別や時代は変われど、根本的なところはオーランドーのまま。人に恋をして、その人と何としても一緒にいたいとか、『自分は何のために生きているんだろう』という考えや、単純なことで悩んだりするところはすごく人間的で、共感できます。ただ、ヴァージニア・ウルフの考えは、私にはまったく理解ができないんです。だから推測でしかありませんが、性別だけではない、ということなのかな。性別だけでは物事を語れないのに、周りの時代や、身なりとかがそうさせている。多分、ただの人間なんだ、という感じなんでしょうね。男だとか女だとかという考えがそもそも違うと。だからオーランドーが男性から女性に変わるのは、ヴァージニア・ウルフが思っている時代への反発心とか、自分が女性に生まれたことに対する苦悩や疑問、葛藤が込められているんだろうな、と思います」
単純明快な物語ではない。でもだからこそ、稽古場で読み解いていくという楽しみは大きいのでは?
「そうですね、小日向さんは稽古をしていて疑問に思うと、すぐ白井さんに質問をなさいます。(小日向さんの口調を真似て)『これは何?』『なんで?』『ここどうするの?』『どういう意味?』って(笑)。そうすると白井さんと小日向さんの話し合いが始まるので、そういうときに私は『ああ、こういうことなんだ』、『このシーンではこういうことが言いたいんだ』というのがなんとなくわかるようになってきました。たとえば20世紀の現代になっている5幕で、オーランドーがデパートへ行ってエレベーターに乗るシーンがあるんですね。そこでコーラスのみなさんが『ここで私はこれを表現しよう』とか『この時代を表現しよう』といろいろ工夫をしていらっしゃって。『ああ、このエレベーターは時代の速さや人生そのものを表している箱なんだな』と。そういう小さな発見が毎日あります」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka