コラム:若林ゆり 舞台.com - 第52回
2017年1月20日更新
第52回:「ビッグ・フィッシュ」で愛すべき“ファンタジー男”を演じる川平慈英の真実!
空想力がたくましくて茶目っ気にあふれ、人並み外れた社交性でどんな人とも仲よくなれる。人を楽しませることが大好きゆえに、空想力をフル稼働させた話で人生を語り、ファンタジーの世界で生き抜いてきた男。それが「ビッグ・フィッシュ」の主人公、エドワード・ブルームだ。ティム・バートン監督がお得意のファンタジー・ワールドを繰り広げ、現実味に満ちた家族の物語と絶妙なバランスで交錯させた映画版「ビッグ・フィッシュ」は、ティム・バートン作品の中でもとりわけ多くのファンをもつ感動作だ。この作品が、ブロードウェイでミュージカルになったというのだからゴキゲンじゃないか。しかも日本版でエドワードを演じるのは、日本が誇るエンターテイナー、川平慈英なのだ。
「これは僕にとって負けられない闘いです」
川平は、静かに闘志を燃やしていた。
「ティム・バートンって大好きな監督で、この映画を見たときには目の覚めるような感覚を味わったのを覚えています。舞台のお話をいただいたときは『この大きな魚は逃しちゃダメだ。これほどのビッグ・チャンスにはもうお目にかかれないぞ』と思いましたねぇ。実は、『ドッキリじゃないか?』って真剣に疑ってたんですよ。でも飛び込んで、稽古を重ねれば重ねるほど本当に、『よくできてるなーこの作品!』と思わされてます。パワフルな歌詞と音楽で楽しませて、ラストは涙腺を崩壊させる。琴線にぐわーっと来るんです!」
共演者たちも口々に「大好きな、思い入れのある作品」という映画版。これを見て味わった「目の覚めるような感覚」とは?
「ティム・バートンらしい作品で、負を抱えている人たちの悲しみがある。でもこの作品ではエドワードがそういう人たちをふわーっと包んで、『それでもいいんだよ』と手を差し伸べるんです。そこがいいんだな。それに、なんといってもエドワードを演じるユアン・マクレガーが愛らしい(笑)! なんて目がキラキラしてるんだ! ユアンのやり方とか容姿は僕とは違うけれども、ユアンが出した答えはフィット感のいい服のように心地よく感じられるんですよ。僕はもともとユアンが大好きで。彼は『ムーラン・ルージュ』では歌っていたし、舞台でも『ガイズ&ドールズ』(『野郎どもと女たち』の舞台版)などミュージカルをやっている。だから『Shoes On!』(川平と仲間たちで作っているショー)でジーン・ケリーの場面をやらせてもらったときみたいに『僕、ユアンやるんだー♪』的な(笑)、ときめきがあるんです。ユアンの演じたエドワードはぬぐいきれないでしょうね。あの憎めない、生きていることへの迷いのなさや、自分に対する根拠のない信頼感とかね。それで周りを巻き込んで、危機的状況をなぜか楽しんでいる(笑)」
エドワード・ブルームという人物を楽しげに語る川平を見ていると、なんてピッタリのキャスティングなんだろうとワクワクしてしまう。ピッタリだと思える理由その1としては、エドワードも川平も類い稀なる社交家で、究極のエンターテイナーだということ。
「エドワードのせりふや歌詞に、『物語』という言葉がすごく出てくるんです。『僕の物語』を語り聞かせ、歌い聞かせて人を魅了する。やっぱり彼は究極のエンターテイナーなんだなぁ。どこへいってもすぐ順応して、人の懐へすぐ入っていってその人を動かしていくんですよね。僕も三男坊で、兄貴たちに『お前はすぐ人の中へ入っていくなぁ』と言われることがあります。兄貴2人が両親とケンカしているのを見ながら『そんなことしなくていいのに』ってうまーく立ち回って(笑)。小さいときは沖縄で育って、それからアメリカに行って叔父の農場で過ごしたり、いろんなところへ行きましたから。適応する能力は比較的あるみたいなんです。環境が変わっても、そこでどう楽しむかを考える。『あ、嫌だなここ、肌に合わないな』というんじゃなくて、自分の肌の色を変えてそこに入っちゃう(笑)。争いごともすごく苦手。だからこの役は、他人ではない感じの皮膚感覚で、自分を入れ込める役だと思えますね」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka