「カイロの紫のバラ」の翻案で映画ファンの夢を体現する緒川たまきの揺れる思い! : 若林ゆり 舞台.com (2)

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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第49回

2016年11月8日更新

第49回:「カイロの紫のバラ」の翻案で映画ファンの夢を体現する緒川たまきの揺れる思い!

この2人の魅力について語り出したら、もう止まらない勢いだ。

「俳優の高木さんはまだ第一級のスターではなくて脇役ではありますけれど、ハルコさんにとってはずーっと憧れていた大スター。片や劇中の寅蔵さんは、本当にかわいらしい人なんです。現実に揉まれていないから、心も赤ちゃんのようにきれいで。高木さんが憧れているコメディスターにハリー・ラングドンという人がいるんですけれど、当時“ベビーフェイス”と呼ばれ人気を博していて、すごくピュアな表現をする人なんですね。劇中で『ハリー・ラングドンを真似ているんだ、あのシーンは』とハルコさんが気づくというくだりがあるんですが、そこはすごく不思議な気持ち。高木さんはピリッとした人なのに、作品の中ではラングドンを参考にしている。寅蔵さんはラングドンのようにピュアな心の持ち主。その2人との三角関係といっても同じ顔をしているし、ハルコさんにはキラキラと万華鏡のように見えて。誰が誰だか、『もうどうしたらいいの!?(笑)』」

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スクリーンから寅蔵が飛びだしてくるシーンがどうなるかは見てのお楽しみ。KERAによれば「手作り感覚にあふれた」舞台になるというが、見どころの1つが劇中映画。緒川はテスト上映で目が釘付けになったとか。

「この舞台では、ものすごくクオリティの高い劇中映画が見られるんですよ。テスト試写では俳優側の作業として、埋めるべきところはどこかとか、もっとこういうふうにしたらどうかとか、ダメ出しをしなければいけないんですけれど、すっかり夢中になってしまって(笑)。その中の人が出てきてくれるということがハルコさんはたまらなくうれしいんですが、見てくださる方もきっとよろこんでくれると思います! それからこの作品が映画と大きく違うのは、登場人物のバックボーンが深く描き込まれているところ。ハルコさんだけでなく、ともさかりえさんが演じる妹にもきっと感情移入することになると思います」

この作品を見た後、きっと残る疑問……それは「ハルコ(映画ではセシリア)は、スターの彼に愛されたのか?」ということ。

『カイロの紫のバラ』を初めて見たときの印象では、セシリアは憧れていた俳優さんに嘘をつかれて、俳優さんは映画の中に登場人物を戻すための方便として甘い言葉を言って去って行ったというふうに、3秒くらいは思ったんですよね。でも、そのあと俳優さんのアップの顔を見ているうちに、『ああ、そういうことじゃないのかも』と思えてきて。白かな、黒かな、グレーかなって。作品を鑑賞するときには、普通、自分の中で膨らんだ想像のほうに触れますよね。たとえばセシリアが愛されたのかどうかも、そのときの気持ちでどちらにでも触れる。でも演じる側となると、ハルコを演じる自分の中に答えが見つかっちゃいそうで怖い(笑)。本番のとき、その日その日で『こうだった、ああだった』って自分の中に感情がわき起こりそうな気がして。それを思うとすごくドキドキするんです (笑)」

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映画ファンのための映画の舞台化は、舞台ファンのみならず映画ファンの心にも強く訴えるはず。

「映画ファンの方たちには、『キネマと恋人』ほどお勧めできる舞台はないと思いますね。私の演じるハルコさんという人は、映画がなければ生きていく自信がないというほどに、映画に救いを見出している。映画を見ている時間というものは、それほどかけがえのないものなんです。きっと映画ファンの方も時間の使い方として、映画を見るということは何物にも代えがたいと思うんですよね。舞台に時間を使うくらいなら映画、と思っていらっしゃるでしょう。でもきっとこの作品だったら、舞台で生身の人間がたったいま演じているということの意味がわかると思うんです。そして、終わってしまった後、役者の表情とか流れていた音楽とか、そこに生まれた匂いのようなものがこびりついて、映画とは違う反芻のしかたというのが生まれると思うんですね。それは繰り返し見ることのできる映画より、もっと根の深いところに刺さって抜けないものになるかもしれない。それは映画にも負けない自信がありますし、一度舞台の余韻というものを味わってほしいなぁと思っています」

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007「キネマと恋人」は11月15日~12月4日、シアタートラムで上演。詳しい情報は公式サイトへ。
https://setagaya-pt.jp/performances/201611kinema.html

[筆者紹介]

若林ゆり

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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