コラム:若林ゆり 舞台.com - 第32回
2015年8月24日更新
第32回:本広監督がももクロ主演作に続いて女子高生の群像劇に挑戦、演劇と映画の境界線をぶっ壊す!
演出家として斬新な手法を試していく一方で、こだわっているのが“笑い”だという。「数少ない日本のコメディ監督」としての自負がものを言うことになりそう。
「僕は映画で無理やり人の感情を揺り動かすというトレーニングをさんざんやってきたんですけど、これにはそういう感情の起伏がない。その中で、笑いという部分はすごく大事にしています。映画だと笑わせるというのは難しいんですけど、ライブだと笑わせるのが割と容易なんですよ。演劇をやると本当に思いますね。演劇ならこんなにドッカンドッカン笑ってもらえるのに、なんで映画だと難しいんだろうって。だからみんな笑いから逃げるんですよね。笑いではなかなか評価されませんし。でも僕は逃げませんよ(笑)。コメディリリーフには高校生に見えない子もいるんですが、確実に笑いはとってきますからね!」
本作のもうひとつのお楽しみは、もちろん明日のスターになるかもしれない若手女優たち1人1人の魅力を存分に堪能し、青田買いができるという点だ。彼女たちは、1474人の応募者から選ばれた21人。オーディションで印象に残ったのは?
「18歳から27歳という年代の女優、または女優を目指している人たちが1500人もいるんだってことに驚きました。急に募集したにもかかわらず。書類を吟味した上で120人くらいの子たちに来てもらって一気に選んだんですけど、演技がうまいのは当たり前。選考では協調性をとくに重視しました。共同作業でどうやって作品を作っていくかが大事なので。協調性はすぐに見抜けますね。グループワークを始めたとき、『私が、私が』という人はまず落とされていきます。高校演劇の甲子園に出ている子たちとか、オリザさんの大学の教え子とかは基礎がしっかりしていて、こういう子を僕らは使わなきゃいけないだろうと思わされました」
演劇からスターを発掘し、育てるというコンセプトは、本広の映画監督としての仕事にもつながっている。
「僕はもともと演劇が好きだったわけではないんですけど、映画をやる上で演劇を知らないというのはかなりヤバイことだなってずっと思っていて。『踊る大捜査線』にしても、演劇畑のうまい人たちが集まっていたことが大きかったと思うんですよ。そういう意味で、映画の中の演劇力ってすごく大事。だからここ10年は演劇を見まくって、いい役者を探しているんです。いろいろ映画の文献を読むと、黒澤明も小津安二郎も、むちゃくちゃ演劇を見に行っているんですよ。黒澤さんは研修所の面接で三船さんを見いだしたり、舞台で仲代さんを見つけたり。僕らも面倒くさがらずにそれをやらなきゃダメですよね」
数年後、きっとこの作品を見たことを自慢できるようになるはず、と本広は太鼓判を押す。あのスター女優の第一歩を目撃したんだと、きっといつか胸を張れる日が来るだろう。
「生き残っていく子は必ずいると思います。オーラの出始めている子もいるし。テクニックのある子、ビジュアルのいい子、コメディセンスのある子、と各タイプが揃っていますから。みんなが『これに出演してよかったね』というようになるといいなと思います。CMに選ばれたりして(笑)。『幕が上がる』のときのももクロ以外のメンバーもみんな売れ始めているんですよ。売れてもらって、僕を監督に逆指名してもらいたい(笑)。織田裕二さんの場合がそうなんです。『お金がない』ってドラマやったときに意気投合して、『踊る大捜査線』をやるというときに僕を逆指名で呼んでくれた。“織田の恩返し”ですね。いまは“ムロの恩返し”が来てるかな。ムロツヨシって10年前まで全然売れていなくて。『サマータイムマシン・ブルース』に出てもらったら、あれよあれよと売れっ子になった。『幕が上がる』のときもムロくんはすごく忙しかったんですけど、無理矢理スケジュール空けて来てくれました。今回の子たちにも、ぜひ恩返しをしてほしいですね(笑)」
「転校生」は8月22日から9月6日までZeppブルーシアター六本木で上演。
詳しい情報は公式HPへ。
http://www.parco-play.com/web/program/tenkosei/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka