コラム:若林ゆり 舞台.com - 第32回
2015年8月24日更新
第32回:本広監督がももクロ主演作に続いて女子高生の群像劇に挑戦、演劇と映画の境界線をぶっ壊す!
本広克行が、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)を主演に高校演劇を描いた映画「幕が上がる」で話題をさらったのは今春のこと。演劇界の重鎮、平田オリザの原作を瑞々しく映像化し、ももクロの魅力を最大限に引き出した同作は、さらにももクロ主演の舞台版としても上演。こちらも大好評を博し、千秋楽公演は映画館でのライブビューイングで多くの観客を魅了した。そしてこの夏、本広が「もともとやりたかった」という平田オリザの傑作戯曲「転校生」を、オーディションで選出した新人女優21人の主演で上演する。
8月の猛暑日。稽古場には色とりどりの個性と魅力を放つ21人の若いエネルギーを前に、楽しげに芝居をつけていく本広の姿があった。
「最初に『幕が上がる』を映画化するという話のときは、舞台上演の予定はなかったんです。でもオリザさんが乗ってくださって、トントン拍子に決まっていった。今回も急遽オーディションをしてから急ピッチで進んでいますが、意外と楽をしている気がしているんですよ。それは戯曲が完成されているからというのもありますし、オーディションで70倍の倍率を勝ち抜いてきた子たちはうまいから、対応も早い。ももクロもすごい吸収力の持ち主でしたけどね」
「転校生」は平田が21年前に発表して以来、「高校演劇のバイブル」と言われてきた作品。とある女子高のなにげない1日をスケッチすることで、少女たちが抱える心の揺れを感じさせる群像劇だ。平田作品特有である「同時多発」する会話のリアルさ、奥深さ、面白さが魅力になっている。
「三段組みで3つの会話が同時多発する戯曲は、最初読んだときは話が頭に入ってこなくて困り果てました(笑)。読んでいるだけだと、どの会話をどう受け取ればいいのかわからなくて。起承転結がないし、急に主役が変わったりもする。でも、そこがこの戯曲の面白いところです。『あ、あの子面白いね』とか興味の持てるところを見つけて見ているうちにぼんやり話が見えてくれば、それで成立する作品なんだと思うんです。『幕が上がる』と同じ高校という設定なので、同じ制服だしリンクしているところもあります。『幕が上がる』で伊藤沙莉ちゃんが演じていた1年後輩の高田という役は、今回も同じ役者で同じキャラクターとして出てくるんですよ」
師と仰ぐ平田とのコラボ三部作の大トリとなる本作は、いろいろな意味で意欲作。映像や斬新な空間演出を駆使し、「演劇と映画の中間点を目指す」というのだ。
「この戯曲は同時多発の会話をどう聞くか、視点を自分で選ぶ醍醐味があるでしょう。今回はさらに、セリフだけではなく選択肢をドカンと増やしました。サイドにカメラが何台もあって、そのカメラが撮影する映像をスクリーンに映し出します。それから、奥のスクリーンでは三段の脚本をずーっと映していく。しかも通路にはスタンバイしている役者がいて、カメラのスタッフワークも見えるから、舞台上にはものすごい情報量があるんですよ」
ナマの芝居と映像が同時に!? それだけではなく舞台裏まで舞台上に! どこを見るかによって、芝居の印象はまるで違ってくることになる。
「所謂メタ構造で、どこを楽しむか、選べるんです。役者のお芝居を楽しむ人がいれば、劇の構造を楽しむ人もいて、映像も楽しめる。たとえばコンサートって武道館だとかドームとかだと、スターは(見え方が)ほんとにちっちゃいんですよ。ももクロもそうですが、遠すぎてよく見えないから、お客さんが見ているのはほとんどモニター。そこにはファンのみなさんの『ウワーッ』っていう渦みたいなライブ感があって。でも見てるのはモニターという。そこに気づいて『なるほど』と思ったんです。いまのライブはこういう見方もできるんだって。今回の舞台はまさにその感じですね。ナマの芝居も見られるんですけど、大事なアップはモニターで表現してしまう。見る人の見方に委ねるというオリザさんの考え方を一歩推し進める形ですね。映画と演劇の境界線をぶっ壊してます(笑)」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka